電力は後から増強しづらい
サーバー・ルームの消費電力の増加が大きな問題になりつつある。プロセッサの高密度化によってサーバーや各種ネットワーク機器の消費電力が増えていることに加えて,これらの機器を冷却するための空調設備用の電力も需要が増えているためだ。サーバー運用にかかる電力量は増える一方である。
しかしサーバー・ルームで利用できる最大電力量は簡単には増やせない。ビルの総電力量は着工時に決まっているからだ。
特にテナント・ビルでオフィス・スペースを借りている企業は注意しておきたい。「テナントの場合,借りているスペースの面積で利用可能な電力量がほぼ決まる。それを超える電力が必要な場合には,建物の管理業者と交渉して割当量を増やしてもらうか,建物側で設備容量増強の検討が必要になる」(NTTファシリティーズの村尾哲郎営業本部ソリューション営業部担当課長)。
テナント・ビルにしても自社ビルにしても,ビル全体の電力増強となると,大掛かりな配線工事が必要になり,膨大な費用がかかる。「電力増強の秘策はない。数年先を見据えた計画を立てないと,電力不足が原因でオフィスを移転せざるを得ないという事態に陥りかねない」(村尾担当課長)。
プリンタを同一ブレーカーにつなぐと危険
サーバーとプリンタ,どちらも身近にあるIT機器であるものの,実は,同じブレーカーに接続すると危険を伴うことを知っているだろうか。印刷処理を実行したあとに,サーバーが突然停止することがある。
このトラブルは,プリンタの印刷時の突入電流が大きい場合に発生する。突入電流とは,瞬間的に流れる,通常時の数倍から10倍以上の大電流のこと。機器の電源を投入したときに発生する場合が多いが,プリンタの場合,印刷時にも突入電流が発生することがある。突入電流が発生すると,電源電圧が変動して不安定になり,同じブレーカーにつながっているサーバーに影響を及ぼす。例えばUPSを使っていると,UPSは電圧の変動を瞬間停電と判断して自動的に電源を切り替える可能性がある。この後,UPSのバッテリーが切れるとサーバーが止まってしまう。
「ライン・プリンタなどは特に突入電流が大きいので要注意」(富士通ネットワークソリューションズの松岡宏司ネットワークエンジニアリング本部設計統括部第二設計部長)。できるなら,プリンタはサーバー・ルームに持ち込まないほうが安全である。ログ出力用などで設置を避けられない場合は,プリンタ専用のブレーカーを設けたい。
直流利用で電力効率は2割アップ
電源の給電方法には直流(DC)と交流(AC)の2種類の方式がある。商用電源は交流だが,CPUやハード・ディスクといったIT機器の主要部品は直流で動作するため,通常,機器内での電流変換が欠かせない。ただ,電流変換は大きな電力ロスを伴い,決して効率的とは言えない。そこで,深刻な電力不足に悩むデータ・センター事業者が注目しているのが,直流対応の製品をつなぐ「直流給電システム」である。
UPSとサーバーを接続しているケースを考えてみよう(図1)。交流電源に対応している一般的な構成では,UPSでAC→DCとDC→ACの2回,サーバーでAC→DC1回の変換が発生する。これに対してUPSとサーバーが直流対応の場合,発生する変換はUPS内部でのAC→DC1回で済む。これにより,「UPSとサーバーだけで,約1~2割の電力量を減らせる」(日本HPの高原プログラムマネージャ)という。直流給電システムはIT市場では登場して間がないため,一部のデータ・センター事業者などの採用にとどまる。ただ,直流対応製品の品揃えが豊富かつ安価になれば,一般企業にも広まる可能性がある。ただし,UPSやサーバーを直流対応の製品に置き換える手間とコストは避けられない。
図1●変換に伴う電力ロスや発熱量を低減するDC給電方式 現在のACをベースにした給電方式に比べて約1~2割のロスが省けるという。 |
消費電流が見える電源タップ
写真1●使用電流値が表示される 写真はエーピーシー・ジャパンの「Rack-Mount Power Distribution Unit」。 |
「今このサーバーはどれくらい電力を使っているのか」。管理者にぜひオススメしたいのが,モニター機能付きの電源タップである。電源タップに内蔵されたディスプレイに,今の電流値をリアルタイムに表示してくれる優れものだ(写真1)。エーピーシー・ジャパンや日本ヒューレット・パッカードなどが製品を提供している。最新のタップはさらに賢い。ネットワーク経由で使用電流を見たり,特定のコンセントを使えなくするなどの制御が可能になっている。
UPSは温度に敏感
UPSのバッテリー性能は,周囲の温度に大きく左右される。このため,サーバー・ルームの熱対策としては,サーバーやネットワーク機器だけでなく,UPS周辺の気温にも気を配る必要がある。
バッテリーの寿命は,利用環境が高温になるほど短くなる。電池工業会の資料によると,UPSに使われている小形制御弁式鉛蓄電池の取り替え時期の目安は,使用温度条件が5~25度の場合で購入後2.5年,30度の場合で1.7年,35度の場合で1.2年とされている。
逆に低温になると,バッテリーの充放電容量が低下し,フルに充電した状態でもバックアップ電源として使える時間が短くなる。つまり,気温が低すぎても高すぎてもいけない。UPSのバッテリー性能を十分引き出すために最適な温度は20~25度である。