「ラック」と一口に言っても,サーバー用ラック,汎用的な19インチ・ラックなど,いくつか種類がある。いまやラックはサーバー運用に欠かせない道具であるにもかかわらず,どんな規格があるか,どんな構造になっているかについては,意外に情報が整理されていない。ここでは,最も一般的に使われる19インチ・ラックについての基礎を解説しておこう。
19インチ・ラックが一般的になってきたのは,1990年代後半。データ・センターや大手企業を中心に急速に広がった。今では普及価格帯のサーバーでも薄型化されているため,中堅・中小企業でも導入が進んでいる。
幅の実寸は19インチより広い
19インチ・ラックは,薄型のサーバーやネットワーク各種装置を効率よく複数収容できるように規格化されたもので,主に,EIA(米国電子工業会)が策定した標準仕様に準拠した製品である。読んで字のごとく,幅が19インチ(482.6mm)であることから,19インチ・ラックと呼ばれる(図1)。
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図1●一般的な19インチ・ラック 米国電子工業会で定めた「EIA規格」に準拠する製品がほとんど。ただし,ラックの奥行きはEIAで規定されていない。 |
ただ,サーバーをラックに取り付けるためのスペースも必要なので,実際のラックの幅は600mmぐらいあるのが普通である。このほか,「ワイド・ラック」「ネットワーク・ラック」などと呼ばれる,標準のラックより一回り大きい700mmや800mmの幅のラックもある。これは,スイッチ機器などで配線の引き回しを容易にすることを想定して作られている製品である。
一方,ラックの高さは,1U(1.75インチ=44.45mm)単位で自由にメーカーが決められるようになっている。例えば,42Uのラックなら,1Uサーバーを42台,3Uサーバーなら14台を収容できる。
奥行きは,EIA規格では規定されていないので注意が必要だ。実際に収容するサーバーの奥行きを調べ,そのラックに合うかどうかを確認する必要がある。最近は奥行きのあるサーバーが増えている。将来性を考えると少し奥行きが広いラックを選んでおく方が無難だろう。
最近のラックマウント型機器は薄型化する一方で,その分だけ奥行きが増える傾向にある(図2)。現状では奥行き900mm程度のラックが一般的だが,これではラック背面に十分な空きスペースを確保しづらくなる。
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図2●ラックは奥行きも考慮して選ぶ ラックの規格では奥行きだけが決まっていないため,奥行きはメーカーによって変わる。ブレード・サーバーのような奥行きがあるサーバーの場合,背面のケーブル束の熱が熱だまりの原因になることがある。 |
空きスペースが減って害が及ぶのは,ケーブル配線である。「配線が機器の排気ファンに引っかかると,ケーブルが熱だまりを引き起こす」(エーピーシー・ジャパンの千歳敬雄ストラテジックマーケティング部マネージャ)という。大型の機器を収容する場合は,通常よりも一回り大きい,奥行きが1000mm以上のラックを選ぶほうが安心である。
なお,19インチ・ラックの規格にはJIS規格もあるが,JIS規格はEIA規格と互換性がないので注意したい。JIS規格では,横幅が480mm,高さは50mmの倍数になっている。
キャビネット・タイプのラックは大きく分けてオープン式とクローズ式の2種類があるが,セキュリティを考慮すると,ラックをパネルで覆い,鍵をかけられるクローズ式のラックが安心だ。オフィスの事務スペースに置くなら,クローズ式が向くだろう。
開口率は50%が標準的
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写真1●空調機,分電盤,防火設備などの付帯設備が内蔵されているラックも登場している 写真は富士通ネットワークソリューションズの「ファシリティキューブ」。 |
熱対策の面では,クローズ式はオープン式より劣る。ただ最近は,前面パネルの開口率(空気が通り抜けられる部分の面積が占める割合)を上げる工夫が凝らされている。開口率は標準的な製品で50%前後。多くのパンチ穴を明けるなどして,80%の開口率を誇るラックもある。
耐震強度,耐荷重もラック選びのパラメータになる。耐荷重は,機種によって100k~1000kgなどと違いがある。製品によっては,オプションでサイド・パネルや梁(はり)を追加・変更でき,これによって耐荷重も強化できる。
なお,ラックにはサーバーやネットワーク装置以外のものも置くことができる。例えば,空調機やUPSのほか,分電盤や防火設備なども収容できるものがある(写真1)。つまり,サーバー・ルームがなくてもラックだけで熱対策やセキュリティ対策は可能になる。大手のラック・メーカーやネットワーク設備の専業ベンダーはこうしたラックのほか,簡易サーバー・ルーム構築サービスも用意している。