まず空気の流れを制御する

 サーバーの熱対策としてまず思い付く手段は空調である。では,部分的に温度が際立って高い場所が生じた場合はどうするか。ここで,空調の温度を下げてサーバー・ルームをもっと冷やせばいいと考えていないだろうか。

 これは正しい熱対策とは言えない。「局所的な熱なのに,部屋全体を冷やすことは電気代の無駄」(日本ヒューレット・パッカードの高原明彦インフラソリューションマーケティング本部プログラムマネージャ)。空調を強めるより,まずは熱を逃がす方法を考えたい。

 熱対策を考える上で重要なのは,サーバー・ルーム全体の効率的な冷却である。その基本になるのは,エアフロー(空気の流れ)を考慮したラックや空調設備のレイアウトだ。冷気の通り道「コールド・アイル」と暖気の通り道「ホット・アイル」を分けて作るように,ラックの向きや列をそろえる(図1)。

図1●ラックが複数ある場合は,吸気列と排気列を作る
図1●ラックが複数ある場合は,吸気列と排気列を作る
吸気列にはラックの前面を,排気列にはラックの背面をそろえる。

 一般に,サーバーは前面から冷気を取り込み,背面から排熱する。そこでラックの前面を,空調からの冷気が届きやすい場所に向け,効率よく冷気を取り込めるようにする。ラック列は冷気をはさんで,互いに前面が向き合うように配置する。忘れてはいけないのが,ホット・アイルでの排気。暖気を放っておくと徐々に周囲の温度が上がってしまうため,天井に排気口を設けるなどして熱を逃がさなければならない。

空調機は床下送風がベスト

写真1●ラック間に置く冷却装置は特定ラックを冷やす場合などに使うと効果的
写真1●ラック間に置く冷却装置は特定ラックを冷やす場合などに使うと効果的
写真はエーピーシー・ジャパンの「InfraStruXure InRow RP DX」。

 IT機器用の空調機には,床置き型,床下送風型,天吊り型などいくつかのタイプがある。それぞれ目的によって選ぶべき空調機が異なるので注意しておこう。

 サーバー・ルーム全体を想定した空調機としては,床下送風型か床置き型が望ましい。複数のラックに効率よく冷気を送れるためである。これに対して天吊り型の空調機は効果が局所的になりやすく,サーバー・ルームには適さない。「特にサーバー・ルームの天井が低い場合,空気の循環が悪く冷気の拡散が期待できない」(NECネッツエスアイの仙石敬司ファシティ&サービス事業部ファシリティエンジニアリング部システム課長)。それでも天吊り型空調機を選ぶ場合には,結露の影響を避けることまで配慮して,ラックの真上を避けるなど空調機の設置場所を選びたい。

 空気の流れを考えたうえで空調を使っているにもかかわらず,熱対策が不十分という場合もあるだろう。そういうときには,ラック内あるいはラックとラックの間に設置する冷却装置を検討してみるのも手だ(写真1)。事務フロアの片隅にラックを配置している企業も同様である。停電時などを考慮に入れ,フロア空調だけに頼らず,部分給電できる空調内蔵ラックを用意したほうがよい。


冷やしたい機器は真ん中に

 「このサーバーのまわり,どうも温度が下がらないな。場所を変えようか」。このように発熱量が多いサーバー機を効率よく冷やそうとする場合,よく風が当たるように空調機に極力近付けようと考えがちだ。しかし実は,空調機に最も近いラックは冷えにくい。

 理由は二つある。一つは風の強さだ。空調機に最も近い場所では,確かに風は冷たい。ただ,風が吹き出す勢いが強すぎて,ラックはかえって冷気を取り込みにくい状態になる(図2)。「空調機から最も離れたラックにも冷気を届けなくてはならないため,空調機の風量はどうしても強くなりがち。その結果,空調機に近いラックへの気流制御が難しくなる」(日本IBMの阪口信貴ITS事業SPG事業推進ファシリティ・サービスSPL部長)。サーバー・ルームでよく使われる床下送風ではラックに直接風を当てないため,その傾向がより強い。

図2●電力消費が高いサーバーは空調機に近いラックではなく,ラック列の中央に配置するのがよい
図2●電力消費が高いサーバーは空調機に近いラックではなく,ラック列の中央に配置するのがよい
空調機に最も近いラックは消費電力が大きいサーバーの配置には適していない。風量が強く冷風を取り込みにくいし,排気がラック前面に回りこみやすいためである。

 空調機に最も近いラックが冷えにくいもう一つの理由は,端にあることで暖気が回り込みやすいことである。ラック背面からの排熱が,ラックの横を回ってサーバーの吸気口に入り込む場合が多い。

 一番冷えやすいのは,空調機からの風の強さが適度で,横からの回り込みが少ない場所。空調機からの距離にもよるが,ラック列の中央部分が最適な配置と言える。発熱量が多いサーバー,あるいは稼働率が高いサーバーは,優先的にラック列の中央に置くとよさそうだ。

空調の強さは全体の熱量で決める

 ブレード・サーバーに代表されるように,サーバーの高性能化・高集積化が進むと同時にサーバー仮想化技術が実用的になったことで,従来の多数のサーバーを統合・集約する動きが広がっている。これによりラック内の空きスペースが徐々に増え,ユーザー企業によっては「ラックがまるまる1本空いた」というケースさえある。

 では,サーバーあるいはラックの数が減ったら,空調を弱めても大丈夫だろうか。答えはノーである。

 特にブレード・サーバーを利用する場合は,むしろ熱対策は深刻な問題になり得る。高集積化によって,ラック1本当たりの消費電力量が大幅に上昇しているためである。

 従来,電力密度はラック1本当たり2~3kワット程度で済んでいた。しかし,「ブレード・サーバーの場合は,きょう体1台をフル実装すると10kワットを超えるケースが珍しくない。1ラックにきょう体3台のブレード・サーバーを載せると,空冷の限界と言われる30kワットを超える可能性がある」(エーピーシー・ジャパンの千歳敬雄ストラテジックマーケティング部マネージャ)。

 このような場合,空調を弱めるどころか,むしろ,より高性能なものへの置き換えを検討する必要があるかもしれない。