富士通と富士通フロンテックは9月11日,PC用の手のひら静脈認証装置「PalmSecure」を発売した。入退室管理やATM(現金自動預け払い機)用途向けに開発・販売していた従来の手のひら静脈認証装置を,PCのログインやアプリケーションの認証に簡易に使えるように改良を施したのが,今回の製品である。
生体認証(バイオメトリクス)装置は「指紋」「顔」「静脈」「虹彩」など多くの種類が製品化されている。富士キメラ総研が調査した国内の市場シェアを見ると,その大半は指紋認証である。ただ「2004年10月に東京三菱銀行(当時)がATMに採用したことで,静脈認証のニーズが高まってきつつある」(富士通 経営執行役 ビジネスインキュベーション本部長 神戸正利氏)と言う。この記事では,指紋認証装置と静脈認証装置の特徴の違いなどを解説しよう。
静脈認証は,指紋認証より認識率が高い
指紋認証はセンサーが小型で,値段も手ごろ(1万円を切るものがある)という導入の敷居の低さが受けているが,認識率が安定しないという欠点がある。指が濡れていたり,極端に乾燥していたり汚れていたりすると,認識率が下がることがあるのである。日経SYSTEMSが実施した実験によると,乾いた指の認識率は平均85.9%という結果になった(2007年2月号 検証ラボ「指紋認証装置の実力」)。それに対し静脈認証は「情報量が多く,高精度な認証が可能」(神戸氏)だという。体の内側にある血中のヘモグロビンに光を当てて測定するので,濡れや乾燥といった外側のコンディションの影響を比較的受けにくいのである。静脈認証にもいくつかのタイプがある。静脈は指,手のひら,手の甲など至るところにある。日立ソフトウェアエンジニアリングが開発・販売している「静紋」などは指の静脈で認証する。今回発売したPalmSecureは手のひらの静脈で認証する。手のひらの静脈は比較的太く,形状の個人差が大きい。
もちろん手のひら静脈認証にも課題はある。装置の大きさだ。センサー自体の大きさは35mm×35mm×27mmと小さなもの。ただ,静脈認証は,センサーが静脈の位置を探すのに時間がかかる。そこで“ガイド”と呼ぶ補助器具を置いて,手を固定して使う。これがスペースを圧迫するのである。富士通/富士通フロンテックの既存製品だと,ガイドの大きさは75mm×130mm×90mmであり,机上で使うにはやや気になる大きさだ。
今回発売したPalmSecureは,ガイドがなくてもセンサー上に手をかざすだけで静脈の位置を探り当てる。実際に手をかざしてみると,1秒程度で認証が完了する。「センサーは既存のものと変えていない。認証エンジンを改良して認識率を高めた。既存製品でガイド無しで認証しようとすると3秒はかかる」(富士通 ビジネスインキュベーション本部 プロジェクト統括部長 代居智彦氏)のだという。
価格は1台3万円弱
PalmSecureは,PCのログイン認証やアプリケーションの認証,Webサイトの認証に使える。付属のPCログイン認証ソフトウエアをセットアップし,認証したいアプリケーションやWebサイトを設定する。すると,認証画面が表示されるのをフックして,PalmSecureの認証画面が起動する。手のひらをかざして認証されれば,あらかじめ登録してあるID/パスワードを自動的に入力してログインが完了する。PalmSecureはスタンドアロンで使うことを想定している。登録した手のひら静脈の情報は,PCのハードディスクに格納する。ただ「『セキュアログインボックス』という別製品と組み合わせれば,サーバーで手のひら静脈の情報を一元管理できる」(代居氏)という。
対応OSは,Windows XP(32ビット版,SP2以降),Windows Vista(32ビット版,Starter Editionを除く)。使用環境は,太陽光と蛍光灯は2000ルクス以下(直射日光が当たらないこと),白熱灯とハロゲン灯は500ルクス以下(光がセンサー面を直射しないこと)。PCとのインタフェースはUSB2.0。「スタンダードタイプ」に加え,マウスと一体となった「マウスタイプ」が用意されている。価格は,マウスタイプのもので1台当たり実売3万円弱となる見込みだ。富士通と富士通フロンテックは,3年間で20万台の販売を目標にしている。