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記者のつぶやき

在宅ワーカー倍増計画の光と影

高木 邦子=ITpro 2007/09/12 ITpro

 「個人情報保護法の施行によって,大手システム開発会社から,在宅の個人事業者への仕事の発注は明らかに絞られた。開発者の人手不足は深刻なはずなのに・・・」と,タンジェリンの藤城さつき社長は歯がゆさを隠せない。同社では,在宅勤務者に対して,システム開発やWebサイト構築などの仕事を紹介している。企業のIT投資が旺盛な中,受託開発の需要は高いにもかかわらず,末端にまで仕事が降りてこないのが実情だ。

 政府は今年5月,「テレワーク人口倍増アクションプラン」を発表した。ITを活用して週8時間以上テレワークに携わる人(テレワーカー)の数は,2005年に674万人に達し,就業者全体の10.4%を占めているが,2010年までにテレワーカーの数を2倍にし,就業者全体の20%にまで引き上げようというのである。

 少子高齢化が加速する中,子育て中の女性や高齢者など「眠れる労働力」をもっと活用しようというのが政府の狙いだ。テレワーク普及の方策として,(1)在宅勤務者の雇用保険などの制度や環境の整備,(2)情報通信システム基盤の整備,(3)分野別の推進施策――の3つを打ち出した。

 政府は率先して,経産省や財務省が2005年度から,その他の省庁も2006年度から順次,職員を対象にテレワークの試験導入を行っている。またこの秋からは中小企業へのIT導入を後押しするため,100社程度が参加するテレワークのモデル事業を開始する。

 華々しくテレワーク推進策が披露されるのとは裏腹に,従来から地道に在宅の個人事業者としてシステム開発を続けてきた人に仕事が回らない現実が起きている。なぜ,こうした状況になってしまったのか。

企業は人材確保のために“在宅”を推進

 2005年の調査では,企業に勤務する「雇用型」のテレワーカーが506万人,個人事業主や小規模事業者による「自営型」のテレワーカーが168万人だった。

 特にIT業界は,テレワーカーの就業人口全体に対する比率が17.0%と高く,テレワークという就業形態が最も浸透している業界だ。IT企業は慢性的な人手不足に悩んでおり,優秀な人材を引き留め,働く環境を整備するために在宅勤務制度に早くから取り組んだ。日本IBMは5年前に業界に先駆けて導入,NTTデータ,富士ソフト,松下電器産業,富士通ワイエフシー,NTTコミュニケーションズ(コールセンター業務)なども相次いで制度化した。

 企業に所属する「雇用型」のテレワーカーの場合は,業務成果を低く評価される,昇進が遅れるといった人事労務上の課題が浮上している。しかし,ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)の観点から,自分の働き方を選びたいと考える従業員が増えていること,自治体なども率先して導入を進めていることなどから,「雇用型」の在宅勤務者は着実に増加している。

 一方,個人事業主など「自営型」のテレワーカーはどうか。数年前から,社員や協力会社の従業員など,内部犯行者による個人情報漏えいやデータ改ざんといった不祥事が相次ぎ,職場外のPCに対するセキュリティ対策は格段に厳しくなった。会社への忠誠心が高いはずの社員ですら不正を働く。まして身元がよくわからない個人事業主にはデータを扱う仕事は任せられないという理屈だろう。「大手のシステム開発会社からの2次請け,3次請けの仕事が,自営の在宅ワーカーに回ってくることはほとんどない」と藤城氏は語る。

 それなら誰でも「雇用型」ワーカーになればうまくいくのかと言えば,そう単純な問題ではない。「自営型」ワーカーは,どうしても在宅でなければならない,長時間外出できない事情を抱えている人がほとんどだ。

 特に多いのは子育てや介護に携わっている人。タンジェリンには,在宅での仕事を希望する求職者約150人が登録しているが,システム開発の求職に限った場合,実に7割が男性なのだという。「両親の介護があり,どうしても家を空けられない」,「父子家庭で子どもの世話をしなくてはならない」という男性たちである。

 会社に勤務していた時の体験がトラウマになっている人もいる。過酷な労働環境を強いられ,身体や精神を病んで退職した人には,なかなか社会復帰できない人も多い。このような場合,「雇用される」「職場に行く」ということに相当なアレルギーを感じている。

 「1カ月の短期でもいいから“客先での常駐”をお願いしたいという求人も少なくないが,“常駐”という2文字が入ったとたん,登録者からの返信はパタッとなくなる」(藤城氏)。在宅でなければならない人たちの事情はそれほど切実だ。

働きたい人の「意欲」を守るために

 政府は,企業からの信頼を担保するために,自営型テレワーカー向けに「テレワークセキュリティガイドライン」を作成して,セキュリティ・レベルの高いテレワーク環境を整備するよう呼びかけている。またITを含めたスキルアップ支援や,在宅ワーカーのための相談所や情報提供を実施するとしている。

 だが,いくら自営型テレワーカーが意欲的にスキルアップし,環境を整備しても,仕事が来なくては話にならない。大手企業が個人情報保護法をはじめとするコンプライアンス問題に振り回され,仕事の流れをコントロールしている現実がある以上,政府は対策を講じる必要がある。

 そもそも政府がテレワークを推進する目的は何か。経済財政諮問会議が掲げた目標通りに「国際的に低い日本企業の労働生産性を1.5倍に引き上げること」なのか,「働く意欲のある人が,もっと多くの就労機会と生きがいを得ること」なのか。どちらも重要だろうが,筆者としては後者に対してもっと積極的な対策を求めたい。

 まず,「仕組みを作って運用する」,すなわちソフト面での支援である。北海道で在宅テレワーカーを束ねるワイズスタッフや,先に紹介したタンジェリンのようなエージェントを育成し,自営型テレワーカーが安定して質の高い業務を受注できるような環境を整えるべきだ。現状では,各エージェントがワーカーたちの業務管理や教育,成果物の品質保証,リスクの担保までを引き受けている。こうした業務をもっと組織的かつシステマチックに遂行できるような仕組みを考え,早急に構築してほしい。

 一方で,「自営型テレワーカーのシステム環境の整備」,すなわちハード面の支援も重要だ。ASPやSaaSなどサービス提供型のテレワークシステムとセキュリティ・レベルの高いネットワーク環境の導入を税制面で支援してはどうか。その上で政府や自治体には「自営型テレワーク」を新産業と位置づけるなどして,その育成のため積極的に業務を発注していく姿勢が求められる。

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