総務省は,2.5GHz帯の周波数を使う新しい無線ブロードバンド(高速大容量)システム用基地局の開設計画の申請受け付けを,2007年9月10日に開始した。同省は周波数の割り当て方針を7月11日に決定し,全国で移動通信サービスを提供する事業者2社に,それぞれ30MHz幅を割り当てる予定だ。

 今回の周波数についてはKDDIのほか,NTTドコモとアッカ・ワイヤレス連合,ソフトバンクモバイルとイー・アクセス連合がそれぞれ,「IEEE802.16e」規格(通称:モバイルWiMAX)による取得を目指している。またウィルコムは,次世代PHS方式による取得を目指している。ただし今回の周波数割り当てにおいては,第3世代移動通信(3G)サービスを既に提供している事業者は,申請する事業者に対して3分の1以下の比率で出資することしか認めないという制限が設けられている。

 このためNTTドコモは,アッカ・ネットワークスが802.16e方式を使う移動通信事業に参入するために設立した企画会社のアッカ・ワイヤレスに出資することになった。アッカ・ネットワークスが持つ有線系の基幹ネットワークと,NTTドコモが持つ無線技術力を生かして事業展開を進めるとしている。しかし,その体制はまだ一枚岩になっていない。NTTドコモの経営陣は,「新規の周波数が割り当てられる以上,名乗りを上げないわけにはいかない」という考えだが,技術陣には802.16e技術に対して懐疑的な見方がまだ残っているようだ。

 一方KDDIは,802.16e対応システムの実証実験を行い,関連の仕様作成に貢献するなど,802.16e対応サービスへの参入に向けて積極的に取り組んできた。このため,802.16eに関する技術力は他社に比べて優位性がある。小野寺正社長は,「出資比率が3分の1以下であっても,自社の技術開発力や経験を生かして,わが社が事業の主導権を握る形を目指したい」としている。現時点では,京セラや三菱東京UFJ銀行,米Intelなどに出資を打診しているようだ。

 ソフトバンクモバイルとイー・アクセスはそれぞれ3Gサービス用基地局を増設するための多額の投資を行っている最中であり,802.16eサービス向けの資金調達で苦労しそうだ。次世代PHSを推進しているウィルコムにとっては,PHSが普及している中国の通信事業者にも次世代PHSを採用してもらえるかが市場拡大に向けて重要なポイントになりそうだ。しかし中国では,PHS事業者が3Gサービスに移行する動きも出てきたという。

 このように各陣営はそれぞれの課題を抱えており,現時点で総務省には各企業が個別に相談に来るレベルにとどまっているようだ。10月12日の申請締め切りに向けて各陣営は,複数の企業による事業体制を急ピッチで固めなければならない状況にある。