意外なことに思えるかもしれないが,8月上旬にサンフランシスコで開催された年次のLinuxWorld Conferenceにおいて,Microsoftのもとに多くの人が集まった。集まったのは,オープンソース界の今年最大のイベントに姿を現すMicrosoftの勇敢な幹部に対して,トマトを投げつけようと待ち構えていた連中だけではない。

 Linuxが様々な規模の企業に浸透するにつれて,企業はMicrosoftと様々なオープンソースのベンダーの両方に対して,製品の相互運用性を向上させるよう要求するようになったのだ。彼らの名誉のために言っておくと,Microsoftもオープンソースのベンダーもこの点に関しては,これまで非常に現実に即した態度をとってきた。かつてLinuxの特徴だった宗教的熱狂は,今では沈静化してしまったようだ。

 この時期にはLinuxWorld以外でも重要なLinux関連ニュースがあった。ユタ州の連邦地裁判事が,2003年以降UNIXを取り巻いてきた法廷劇を終わらせることを願って,厳しい判決を下したのである。2003年というのは,SCO Groupが「IBMはUNIXのコードを,無料で公開されているLinux OSに組み込んだ」として,10億ドルの損害賠償を求める奇妙な訴訟を起こした年である。「自分たちはUNIXの著作権保有者なので,違反コードを含むLinuxの販売や使用から発生した利益の一部を受け取る権利がある」というのが,SCOの主張だった。

 だが,SCOの主張には一つ問題があった。UNIXの著作権を所有しているのはNovellなのだ。もちろんNovellは即刻,SCOに所有権があるという主張に対して異議を唱えた。これら2社の法廷闘争は4年間続いたが,ようやくそれに終止符が打たれた。結局,SCOではなく,Linuxを支援していることで有名なNovellが,UNIXの著作権を所有しているという判断が下されたのである。

 この判決は様々な影響をもたらすだろう。第一に,IBMを相手取ったSCOの訴訟は,ほぼ確実に棄却されるだろう。IBMがSCOの著作権を侵害したという主張は,SCOが著作権保有者でなければ成立しないからだ。第二に,同様の訴訟を避けるため,SCOに対して実際にライセンス料を支払ったMicrosoftやSun Microsystemsなどの企業は,自分たちが誤った判断を下したことに気づいた。そして,SCOはそうして得たライセンス料の一部を正当な著作権保有者であるNovellに支払う義務を負う可能性が高い。おそらく,SCOの財政は破綻し,彼らは姿を消すだろう。

 このニュースでもっとも重要なのは,Linuxを取り巻いていた不確定要素がなくなったということだ。Linuxは,その合法性が正式に認められ,過去4年間の厄介な法的問題の呪縛から逃れることができたのである。少なくとも法的な見地からは,Linuxを使うことで発生するかもしれない問題が,突然解消したのだ。そして,ここ数年間Microsoftが賠償金などに関して発してきた数々の言葉は,突然古臭く聞こえるようになった。Microsoftがオープンソース・コミュニティに対して特許攻撃を仕掛けるのではないか,と未だに心配している人は,そういう風に感じないかもしれないが。

 そう,Microsoftの特許攻撃が現実になる可能性は極めて低い。以前にも述べたように,Microsoftはこのところ大口の顧客から,Linuxやオープンソースと協力するようにと指示を受けている。そして,同社は実際に多くの点で,その指示に従っている。今,新しい時代が始まろうとしているのは間違いない。この新しい時代には,両陣営が「恐怖,不安,疑念(FUD)」戦略をとる代わりに,これまでよりも外交的で能率的な取り組みを行うことを,筆者は願っている。