このところ,IT業界で話題になっているテクノロジー・キーワードの一つ,それが「仮想化(virtualization)」だ。仮想化には二つの目的がある。一つは,複数のサーバーを組み合わせて,あたかも一つのコンピュータのように見せること。もう一つは,1台のコンピュータに複数の仮想OSを実装し,あたかも複数のコンピュータが稼働させているようにふるまわせること。いずれにせよ,コンピュータの物理的なハードウエアの台数と,論理的に動作しているOSの数が,1対1に対応しなくなる。

チリも積もれば山となる,サーバーの利用効率を向上へ

 仮想化技術を採用するメリットは多々あるが,IT部門はサーバーの利用効率を高めることで,大幅なコスト削減が可能になると期待をかける。一般的にサーバー1台1台の平均利用効率は10%台とも,20%台とも言われる。つまり,多くの時間は稼働せずに,仕事を待っている状況にある。ピーク時の処理量に合わせて,各部門がサーバーを個別に導入した結果,企業には利用効率の低いサーバーが散在することになる。チリも積もれば山となる――部門ごとの無駄なコンピュータ資源をかき集めれば,全体として大きな節約となる。仮想化技術を導入することによってサーバーを集約し,それを必要に応じて部門ごとにリソースを分配すれば,より少ない台数のサーバーで全社の要求をまかなうことができる。実際,サーバーの稼働台数を大幅に減らし,平均利用効率を30%台あるいは40%に高めることに成功したユーザー企業も増えつつある。分散したサーバーをいかに束ね,どのように複数の仮想OSを実装するかが,IT部門の腕の見せ所となる。

 ひとたび,仮想化技術を導入すれば,将来のシステム拡張にも柔軟に対応できるようになる。新規にハードウエアを購入しなくても,論理的なサーバーを立てることができるからだ。仮想化技術を採用した先進企業のIT部門からは,ユーザー部門の要求に迅速に対応できるようになったとの感想が聞かれる。

「守りのIT投資」から「攻めのIT投資」への転換期に

 本連載の第3回でも言及したが,日本のIT投資では,既存の情報システムを保守・運用する「固定的IT支出」が大半で,新規システム開発などの「戦略的IT支出」の比率が圧倒的に低い。過去のIT資産の運用が重荷となり,先へ進む足取りが重いのが現状だ。ならば,仮想化技術を採用することで,この固定的IT支出を削減する。そして,捻出したIT予算を,新規の戦略的IT投資に振り向ける。攻めのIT投資によって,会社の売上を引き伸ばす――こうしたポジティブなIT投資の循環を実現する必要がある()。

 仮想化技術を導入する目的が,単なるサーバー台数の節約に終わってはもったいない。IT部門が主役となって,IT投資に対する考え方を見直す好機ととらえてほしい。そして,ITがコスト削減の対象物ととらえられがちな現状に疑問を投げかけ,ITは新規ビジネスを創出する道具であることを再認識していただければ幸いである。

図●仮想化技術で守りのIT投資額を削減,そして戦略的なIT投資へ
図●仮想化技術で守りのIT投資額を削減,そして戦略的なIT投資へ