世界規模での厳しいシェア争いが続くデジタル・カメラ市場。商品サイクルは定番の機種で半年程度とどんどん短くなっている。ヒット商品はできるだけ短期間に多く売り切り、それほど成功しなかった商品の場合、できるだけ在庫を減らす努力が求められる。

 06年度に660万台のデジタル・カメラを販売した富士フイルムは、この問題に取り組むため、販社や工場、本社など各部門向けの販売実績・予測データや、在庫回転率などを多面的に分析できるシステムを構築した。データの分析には、日本NCRのデータウエアハウスであるTeradataを用いる。

 生産や在庫の実績は、販社と工場の基幹システムから日次で取り出し、販売計画は月次を基本に販社の担当者から送らせる(図1)。シェア重視や利益重視といった経営判断を基に、集まったデータを分析し、日次で生産・在庫調整ができるようにした。

図1●海外販社の製販情報を日次で収集して需給調整をリアルタイムに
図1●海外販社の製販情報を日次で収集して需給調整をリアルタイムに
富士フイルムが05年10月に1つの事業部で稼働させ、06年5月に7事業部に展開した
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 富士フイルムの林成樹経営企画本部ITグループ担当部長は「現地からの発注数が増えたようなときに、在庫の増減まで分かるようになったので、やみくもに生産量を増やすことがなくなった」と話す。

 05年11月にシステムが稼働した後、デジタル・カメラの担当事業部では、1年で成果が表れた。06年末ころに前年同月と 比べた際、部品の余剰在庫が6分の1に、製品在庫が3分の2に減ったのである。

販社の実態を“見える化”

 導入後、1年ほどで成果をもたらした理由は、多面的な分析だけではない。同社の売上高の7割を占める、世界の30の販社を、SCMに関する流れに巻き込んできたことがある。

 富士フイルムが、デジタル・カメラのSCMを最適化できなかったのは、販社の流通在庫や販売計画の詳細を、すぐに把握する手段がなかったことが原因の一つである。欠品を恐れる販社は、分かっていても在庫を抱えたがる。

 「発注は多いが、在庫は増えているのではないか」。富士フイルム本体は、こうした仮説を実証するデータがないまま、需給調整を進めるしかなかった。実際には売れている製品の追加発注にも、慎重に対応するしかなかったわけである。それを今回のシステムは解決した。

 販売計画などのデータをシステムに入力する作業は、販社の担当者にとって決して負担が小さくない。システムの稼働当初はなかなか正確なデータが上がってこなかった。この問題を解決するため、富士フイルムの情報システム部門は努力を重ねた。

 販売計画を入力すれば工場が納期を回答するなど、販売の現場に役立つ機能をシステムに盛り込んで、現場の理解を得られるようにしたのだ。林担当部長は「在庫状況がリアルタイムに分かれば、世界の同じ地域の販社同士で在庫を融通し合えるようになるなど、販社にメリットがあることを根気よく説明していった」と話す。

 同じシステムを、07年7月時点で全社14事業部のうちの7事業部にまで展開した。システムへの投資額は8億円程度(本誌推定)とみられるが、「1年で回収できた」と林グループ長は胸を張る。