■中小ソフトハウスの経営者・経営陣の皆様に成長の壁を突破する方法をお話する第9回目は、中小ソフトハウスがビジネスを始める時に、陥ってしまう落とし穴についてご説明します。

(長島 淳治=船井総合研究所 戦略コンサルティング部)



「長島さん、このソフトは最新のソリューションを盛り込みました。言語も今流行りのRubyを採用し、オブジェクト指向で・・・。このライブラリが・・・。さらにこの通信で・・・・・・」
「なるほど、なるほど。分かりました。それで、どれくらい販売されているんですか?」
「それが全く売れないんです。こんな良いソフトウエアなのに、どうしてでしょうか」

これは、ソフト業界によくある落とし穴です。製品を懸命に開発しました。ところが、全く売れないという現状に、頭を抱えてしまうのです。

そこで今回は「お客様視点?でも本当は売り手視点?」という内容についてお届けします。

商品化で開発の役割は20%

ソフトウエア業界には、成功のための神話的なストーリーがあります。それは自社商品を展開して、エンドユーザー直販ルートを開拓し、売上・利益を安定させて、社員満足も向上させる、というものです。これは何となく正しいように感じます。

そこで、多くの中小ソフトハウスは、年商3億円前後になると、途端に新領域の開拓とばかりに自社商品の展開に踏み出そうと考えます。利益も節税対策を実施して3%台をキープできていれば、ある程度投資できる金額は確保できるものです。

そこで一世一代の大勝負とばかりに、気合を入れて商品開発を行います。社長も元は技術者だった方が圧倒的に多いので、自社商品の開発には力が入ります。3カ月から半年、中には1年かけての開発を行います。コストは肥大化していきます。3000万円から5000万円程度はその商品に投下します。資金繰りが厳しくても、商品ができれば一気に改善されると、銀行から借入を起こします。

不満はありながら、遂に完成です。そして、いざ商品を展開しようと考えた時、ふと疑問が頭をもたげ始めます。

「あれ? ソフトウエアってどうやって販売したら良いんだろう・・・」

こうやって数多くのソフトウエアが自社パッケージという名の下に開発されていきます。しかし、ここに最初の落とし穴が潜んでいます。自社商品展開が躓く最初の壁がここです。

難しいのは製造よりも販売、力の配分は製造:販売=20:80が最適

自社商品を展開しようと考えた会社は、まずは作ることにばかり意識を向けます。どんな言語で、どんな機能を盛り込もうか、そこには職人としての純粋な興味はありますが、商売人としての嗅覚は存在しません。つまり商品設計の段階で、既にお客様視点は消えているのです。

これまでの経験から二ーズは分かっているとばかりに、勝手な理解から開発が進みます。開発中には、お客様という言葉は皆無となり、言語や機能、画面遷移の容易さといった技術中心の話し合いに終始します。

出来上がった商品は、技術者の満足を満たします。ところが、それは全くお客様に伝わることはありません・・・。

お客様の視点が覆る瞬間!

自社開発の商品を愛し過ぎている経営者とお話すると、とても興味深い事実に行き当たります。お客様のために自社商品を開発する事が目的だったはずが、あまりにも売れないと、こんな会話が普通に飛び交うようになります。

「商品は絶対に素晴らしい。売れないのは客が悪いんだ」
「競合の商品なんて大した事ないよ。うちの商品の方が絶対に優れているんだけどな・・・」

良い商品を作れば売れると考えて、過大なコストを投下してまで作ったソフトウエア。ところが、全く売れずに悩んでいる経営者は、いつしかその責任をお客様に被せようとします。仮に販売チャネルを持っていたとしたら、販売チャネル側にその責任を転嫁します。自社商品はあくまでも優位性があり、絶対に間違いが無いと考えてしまうのです。

しかし、良い商品という定義を間違ってはいけません。良い商品とは「売れている商品」なのです。

そもそも自社商品を開発する目的がぶれているケースがあります。自社商品は本来、「お客様への貢献のためには自社商品での展開が必要だ」と考えるから開発するのです。ところが、自社のブレークスルーのための商品開発が目的となっているので、ほとんどがお客様不在の開発になってしまいます。

私は以前、3000社を超えるソフトハウスのホームページを閲覧しました。そこではっきりと分かったことがあります。それは顧客不在だという事実です。

これまでの業務経歴が書かれています。業種・業態も混在しており、業務もバラバラに掲載されています。さらに、それを実現した言語やデータベース名が書かれています。しかし、これを見て、一体お客様は何を考えれば良いのでしょうか?

パッケージを販売している会社も同じです。パッケージ名称があり、商品概要が書かれています。しかし、機能的な説明ばかりで、誰に使ってほしい商品なのか、その会社が利用するとどんなメリットがあるのか、全く分からない説明が羅列されます。

今やホームページは、顧客接点を持つための重要なファクターであるにもかかわらず、ここでも顧客不在なのです。

大切な事はいつもお客様視点になることです。売り手の発想を抑え、「お客様なら」という問い掛けをいつもしてみて下さい。次回は、「これか、業績向上のツボは!」についてお話させていただきます。


著者プロフィール
1998年、桃山学院大学経営学部卒業。某大手SIerでの営業を経て、船井総合研究所に入社。以来、年商30億円未満のソフトハウスを専門にコンサルティング活動を行う。「経営者を元気にする」をモットーに経営計画作り、マーケティング支援、組織活性化のため全国を飛び回っている。毎週1回メルマガ『ソフトハウスのための幸福経営論』を発行。無料小冊子『ソフトハウスが元気になる30の法則!』も発刊。