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間違いだらけのIT投資

シンクライアントを考える --- ユーザー部門の生産性を犠牲にしてはいないのか

浅見 直樹=ITpro 2007/10/09 ITpro

 個人情報の漏えいを防ぐという観点から,シンクライアントに対する注目が集まっているが,このブームは何を意味しているのだろうか。シンクライアントを導入すれば,顧客などに関する個人情報を端末に記録する必要がない。また,会社の機密情報も端末には残らない。仮に端末を紛失したとしても,あるいは盗難にあっても,会社の安全を守れることから,導入を検討する企業が増えている。

 また,シンクライアントには,IT部門にとって,もうひとつご利益がある。端末の管理・運用が単純化され,簡素化されることだ。社員が個々に,自由にパソコンを購入し,好き勝手なソフトウエアを導入する状況を許せば,IT部門としては管理が複雑になる。ここに,ユーザー部門とIT部門の綱引きの関係が生まれる。コンプライアンス重視という社会背景を受けてIT部門は,「個人情報保護」あるいは「セキュリティ」といった錦の御旗を掲げる。これにより,シンクライアントの導入を一気に推進したいところだ。ところが果たして,これはユーザー部門の利益と一致するのだろうか。

IT部門の論理でシンクライアントに傾倒していませんか

 ITの歴史を振り返ると,シンクライアントと類似の概念が提唱されたことが何度もあった。「ネットワーク・コンピュータ」あるいは「Xウインドウ端末」のように,クライアントのコンピュータを軽装備にし,ネットワーク経由で処理を実行する。しかし,こうした概念は必ずしも,IT業界の中でメインストリームにはならなかった。ネットワーク性能の不足や,端末にストレージ機能などがないことから,使い勝手が不十分だった。当時に比べて,ネットワーク環境が充実したことにより,シンクライアントの使い勝手は,かつてのネットワーク型端末に比べて格段によくなっている。今度こそ奔流にと,ITベンダーは期待をかける。

 たしかに,シンクライアントを活用した方が好都合な用途はたくさんある。パフォーマンスがやや劣化したとしても,それが業務に本質的な支障を来すことのない用途にはシンクライアントがうってつけだ。ただ,パソコンを生産性向上のツールとして利用したいユーザーはどう受け止められているだろうか。若干の性能劣化でも不満を訴えたいだろうし,ストレージ機能を使えないことにも不快感を示すかもしれない。決して,ユーザー部門の希望をすべてかなえることがIT部門の業務ではないが,ユーザー部門の生産性を損ねることがあってはならないだろう。

イノベーションの価値を「見える化」すべし

 シンクライアントへの期待が高まるのは,クライアント・パソコンの新技術に対してIT部門およびユーザー部門の関心が薄れているからではないだろうか。クライアント・パソコンは何を使っても同じ --- こんな思い込み,あるいは決め付けがIT業界に広がっている。その理由は,クライアント・パソコンの技術進化による効果を「みえる化」できていない点にある。だからこそ,

投資対効果=生産性/コスト

の数式におけるコスト削減ばかりが論点になってしまうわけだ。

 かつて,パソコンがいかに進化しているかを説明するのは,極めて容易だった。それは,動作周波数がパソコンの機能性・使い勝手に強く関係していたからだ。つまり,動作周波数こそが,上記の数式の分母にあたる「生産性」と直結する数字だったからだ。50MHz → 100MHz → 500MHz → 1GHz → 2GHz・・・。パソコンのハードウエアが進化するにつれて,ソフトウエアも高機能になる。すると,古いハードウエアでは性能が足りない。こうした循環を繰り返すことにより,ユーザーの間ではパソコンの性能に対する枯渇感が常にあった。だからこそ,動作周波数が技術進化の証であり,ユーザーは新規パソコンを導入する理由を見い出すことができたのである。ところが,現在のパソコンを通常のビジネス用途で利用している限り,性能に対する不満はさほどない。セキュリティ対策ソフトなどがバックグラウンドで動作している際に不都合を感じる,あるいは起動時間が遅いなどへの不満は聞かれるが,高性能化を望む声は依然ほど高くはない。ある程度の満足感を得てしまっている。

 では,クライアント・パソコンにイノベーションはないのか。そんなことはない。着実に進歩し続けている。ただ,その進化ぶりを定量的に説明しにくくなっている。新しいイノベーションを起こす源泉は,CPUの構造の変化にある。新型のCPUは,マルチコアと呼ぶ構造を取る。一つのCPUに,複数のプロセッサを内蔵する。つまり,動作周波数を上げずに,プロセッサの数を増やすことで性能を高める。こうした新技術の恩恵は二つある。一つは,消費電力を抑えられることにある。もう一つは,それぞれのプロセッサに異なる処理を割り当てることで,複数の作業を効率よく処理できるようになることだ。一つのプロセッサで複数の処理を実行する際には,処理を切り替えるオーバーヘッドが生じる。このオーバーヘッドがない分,処理効率が高まる。

 例えば,こんな使い方も可能だろう。一つのプロセッサを,いわば,社内のIT部門のスタッフのように活用する方法だ。セキュリティ対策の一環としてパソコンのソフトウエアを自動的にアップデートする作業,あるいは自分が使用するパソコンがウイルスに感染していないかを確認する作業などを,本来ならばIT部門に任せてしまいたい業務をプロセッサに代行させるわけである。IT部門は,シンクライアントを導入しなくても,クライアント・パソコンの管理・運用・監視が容易になる。その分,「攻めの投資」に注力できることだろう。ユーザー部門のパソコンの自由度を損ねることがなく,しかも,わずらわしいパソコンの保守作業が軽減される。

 つまり会社としては,生産性を犠牲にすることがなく,セキュリティを確保できるわけである。こうしたイノベーションの価値を「みえる化」できるかどうか,それはベンダー側の課題といえる。一方ユーザー企業は,ベンダー任せにせず,ITイノベーションが企業の生産性の向上にどれだけ寄与するのかを自ら考え,攻めの成長戦略を果敢に描いてほしい。


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