ポイント
・アーキテクチャの違いから製品差を押さえることが基本
・サーバー統合用途では,移行ツールの実用性もチェック
・仮想サーバーの移動機能はユーザーの評価が高い

仮想サーバー・ソフトの必要性が増している。

 アステラス製薬は,仮想サーバー・ソフト「Virtual Server 2005 R2」を導入し,2006年4月からサーバー統合を進めている。製品を選んだ竹沢幹夫氏(情報システム本部 情報システム企画部次長)は,「部門のシステム担当者から,“仮想サーバー・ソフトを使ってよいか”という質問が多く寄せられていた。そろそろ仮想サーバー・ソフトの社内標準を決める時期だと思った」と,導入のきっかけを説明する。

 仮想サーバー・ソフトは,物理サーバー上に,「仮想サーバー」を提供する(図1)。1台のサーバー機に複数の仮想サーバーを配置できるので,サーバー機の数が減らせる。また,最新のハードウエアではサポートされないWindows NT 4.0(以下,NT 4.0)なども,仮想サーバー上なら動かせる。

図1●仮想サーバー・ソフトの例
図1●仮想サーバー・ソフトの例
仮想マシン・モニター上に仮想サーバーを提供することが基本機能。仮想サーバーごとに,ゲストOSとアプリケーションを稼働できる。ホストOSの有無,ゲストOSで利用可能なOSの種類などに製品差がある。図中の(1)(2)(3)はハードウエア・リソースを仮想化する製品。(4)は,一つのOSを仮想化して,複数の仮想環境を提供する
[画像のクリックで拡大表示]

 住友電気工業は,2006年8月以降にリリースしたシステムを,仮想サーバー・ソフト「Xen」の上で稼働させている。「サーバー機は保守が切れるので 5年ぐらいでリプレースする。しかし,その上のOSやアプリケーションは10年後もそのまま使い続けたい」。情報システム部 システム技術グループグループ長の中村伸裕氏は,仮想サーバー・ソフトの導入理由をこう語る。

 中村氏の言葉に仮想化の本質が見える。それは,「サーバー機からOSを切り離して運用できること」だ。サーバー・インフラを設計,構築,運用するITエンジニアにとって今後,仮想化は重要な検討課題となる。では,どのような製品があり,どれを選べばよいのか。そのポイントを解説しよう。

仮想化を利用する三つの目的

 今回取り上げたのは,x86サーバーで稼働し,LinuxやWindowsが利用できる製品。(1)Virtual Server 2005 R2,(2)VMware ESX Server,(3)Xen 3.0,(4)Virtuozzo,の四つである(図1)。

 選択に先立ち,仮想化の利用目的を確認しておこう。大きく,「(1)サーバー統合」「(2)古いOSの延命」「(3)ホスティングの効率化」の三つがある(図2左)。

図2●仮想サーバー・ソフトを選択するポイント
図2●仮想サーバー・ソフトを選択するポイント
まず,「サーバー統合」「古いOSの延命」といった,仮想化の利用目的を明らかにする。その上で,アーキテクチャや利用可能なゲストOSといった基本事項から製品を絞り込む。選択に当たっては,「GUI運用管理ツール」の必要性といった運用面も考慮しておきた
[画像のクリックで拡大表示]

 (1)は,既存のサーバーを仮想サーバーに移行し,サーバー機の数を減らして運用コスト削減を図る。(2)はNT 4.0やRed Hat 6.2などの古いOSを仮想サーバー上に移行し,最新のサーバー機で使い続ける。(3)は,リソースの調整が容易といった仮想サーバーのメリットをホスティングに生かす。

 製品選択のポイントは,大きく「基本事項」と「考慮点」の二つだ(図2中)。基本事項は,図1に示した製品のアーキテクチャによる特性や,利用できるゲストOSの種類,コストなどがある。

 考慮点は,仮想サーバーの運用を支援する機能やツールの有無だ。既存のサーバーから仮想サーバーに移行する際は,「移行支援ツール」の存在は心強い。また,「GUI運用管理ツール」の必要性もチェックしたい。以下,製品ごとにユーザーの選択を見る。

選択1 Virtual Server 2005,R2

 Virtual Server 2005 R2を選択したアステラス製薬には,「サーバー統合で台数を減らす」「NT 4.0を延命する」という目的があった。

 製品を選んだのは2006年1月。ゲストOSとしてNT 4.0が動くという条件で,VMware ESX ServerとVMware GSX Server(現在は無償の「VMware Server」)も候補に挙がった。3製品について,性能とコストを比較したところ,どれも性能要件を満たしていた。当時は,VMware ESX ServerのみがゲストOSをデュアルCPUで動かせたので,他の2製品よりも性能が高かった。VMware GSX ServerとVirtual Server 2005 R2の性能は同等だった。

 選択の決め手となったのはコストだ。「VMware GSX Serverに移行するための費用は当時,100万円のオーダーだった」(竹沢氏)。一方のVirtual Server 2005 R2のコストは20万円台で済む計算。Windows Server 2003 R2 Enterprise Editionに,仮想サーバーで利用できるゲストOSのライセンスが四つ付属していることがコストの差を生んだ(表1)。

表1●x86サーバーで利用できる仮想サーバー・ソフトの例
表1●x86サーバーで利用できる仮想サーバー・ソフトの例
[画像のクリックで拡大表示]

>>後編