Gartner, Inc.
ニック・ジョーンズ リサーチVP 兼 最上級アナリスト
田崎 堅志 リサーチ VP


 携帯電話はパソコンよりもパーソナルな端末であり、消費者向けのチャンネルとしてますます重要になる。モバイルWebの技術、社会的あるいはビジネス上の革新を常に注目しながら、戦略を頻繁に修正する必要がある。

 モバイルWebの構成要素のうち、ここでは端末、プラットフォーム、技術、コンテンツとサービス、ビジネス・インフラ、ネットワーク事業者の6要素に焦点を当て、将来を展望する。

 まず端末のトレンドは、洗練と増殖に集約される。モバイルは、技術よりも流行牽引型の市場であり、上位ベンダーは詳細なセグメント化と製品ポートフォリオが求められる。モバイルWeb端末といえば、2011年までの主役は携帯電話機だが、UMPCやタブレットPC、メディア・プレーヤ、ゲーム機にも広がるだろう。HTMLブラウザを搭載するスマートフォンの比率は、2010年までに欧州や日本で60%、米国では30%になるとみる。

 技術的な革新で期待できるのは、ユーザーとのインタラクションの分野。タッチ・スクリーンや顔認識、各種センサーといった技術だ。2011年までには、折り曲げ可能な画面技術によって、さまざまな形状の端末が登場する。

 ここでいうプラットフォームは、OSやブラウザ、あるいはフラッシュやウィジェット、J2ME(Java 2 Platform, Micro Edition)などのコンテンツ配信ツールで構成され、モバイルWebの進化を巡る主戦場となる。

 このうちブラウザ市場は、パソコン向けWebブラウザと互換性がある高機能版と、機能を絞った端末向けの2つのカテゴリに集約されるだろう。OSについては、Windows MobileやS60のようなベンダー固有のOSがLinuxと共存し、2011年までは独占的になることがない。モバイルLinuxは単一市場ではなく、いくつかの派生品が混在するだろう。Webサービス開発者からは、J2MEやAjaxのようなプラットフォーム技術にみえる。

 この分野における今後のトレンドの一つは、サン・マイクロシステムズのJava FXやノキアのS60ウィジェットといった新しい技術の台頭である。モバイル向けHTML、Ajax、Flash Liteのような技術と競合するだろう。

 ビジネス・インフラとしては、単にパソコン向けWebサービスの画面寸法を小さくしたものではないと考える。まったく異なるインタラクションやユーザー・ケースを持つ、未知の世界である。例えば、位置情報は重要であり、モバイル・コマースや広告の分野で有効だ。搭載技術は、高機能版がGPS、普及機では基地局IDを利用するものになる。2010年時点のGPS搭載率は40%程度とみる。

 モバイル決済は2010年までは地域限定のニッチな市場にとどまる。検索サービスは、従来型のWeb検索ではなく、過去の利用履歴や地域情報を生かしたプロアクティブ型が増える。

 コンテンツおよびサービス事業者はこの分野でも革新的であり、新サービスを牽引するだろう。Webサービスの会社とネットワーク事業者のアライアンス、さらにはWebとモバイルの連携サービスを期待している。例えば、グーグルが利用者の端末を通じて「自動車のショールームで10分間費やした」ことを知ると、次回のWebアクセス時には自動車の広告が現れるといった仕組みだ。位置情報と結び付けられる、モバイル向けの新しいコンテンツも求められる。

 世界のほとんどの地域で、ネットワーク事業者は成果を得ていない。Webサービスをコントロールできず、多くの場合には影響力を行使しきれない。

 IMS(IP Multimedia Subsystem)は革新的なWebサービスの提供手段になると言われているが、私たちはそれには賛同できない。IPベースの音声サービスには役立つが、モバイルWebサービスの何の助けにもならない。