日本経済は本当に力強さを取り戻したのか――。「いざなぎ景気」を超える長期的な景気拡大が話題になったのは2006年秋。その後も,緩やかにではあるが確実に日本の景気は上向いている。例えば景気指標の一つであるGDP(国内総生産)は過去5年間,プラス成長を遂げた。GDPの世界ランキングも米国につぐ2位の座を堅持している。それにも関わらず,世界における日本の存在感はなぜ高まらないのか。その一因は,経済成長率の低さにある。

さらに先に進むIT投資大国の米国,水をあけられる日本

 世界のGDPは過去3年,5%を超える高い成長を遂げている。中国をはじめとするアジア各国の伸びが背景にある。むろん,既に経済大国となった日本に,新興諸国の伸びと同じレベルの成長を期待するのには無理がある。では,目安となる数字は何か。おそらく,GDP世界1位の米国が日本にとってのベンチマーク対象として妥当なところだろう。 実は1992年以降,日本のGDP成長率は常に米国を下回っている。つまり,この15年もの間,日本と米国の差は開き続けているのである。その米国は過去3年間,GDP成長率が3%~4%と高い。対する日本のGDP成長率が3%を越えたのは,1990年度にさかのぼる(図1)。「ジャパン・パッシング」と言われないためには,日本も米国を上回るGDP成長率を達成したいところだ。

図1●日本のGDP成長率
図1●日本のGDP成長率

 では,IT投資という点から日本と世界を比較してみよう。調査会社のIDCによれば,日本におけるIT投資額は順調に増えており,2007年には12兆円を上回り見通しだ。金額でみれば,日本は米国に次ぐ世界2位のIT投資大国といえる。ただし,GDP成長率と同様に,IT投資額の伸び率は低い。米国では4~5%と高い伸び率に対して,日本の伸び率は2%前後と勢いがない。特に気になるのは,

米国:  IT投資額の伸び率 > GDP成長率
日本:  IT投資額の伸び率 < GDP成長率

という図式になっている点である。日本企業にも,積極的なIT投資によって生産性を高めようという姿勢がほしいところだ。

日本のIT投資マインド,21カ国で最下位に

 調査・コンサルティング会社のガートナーも,日本のIT投資マインドの低さを指摘する。同社が2007年6月に発表した,世界21カ国IT投資マインドに関する意識調査では,日本がダントツの最下位となった(該当PDFファイル)。インドを筆頭に,新興国が上位を占めたのは納得できるが,ポイント数で日本はダントツの最下位に終わった(図2)。しかも,調査対象となった7つの指標のうち,「IT予算の対売上比率」「CIOを置いている比率」「経営陣がITの重要性を意識している比率」「攻めのIT投資」の4指標において,21カ国のうち最下位だった。既にITインフラの整備が進んだG7諸国の中でも,日本のIT投資の低さは際立っている。やはり特筆に価するのは米国の動きだ。G7諸国の中でも第2位の投資マインドを持ち続けている。そこには,ITなくして生産力を高められないという米国企業の強い意思がみてとれる。

図2●世界21カ国を対象にしたIT投資マインド調査
図2●世界21カ国を対象にしたIT投資マインド調査

 電子情報技術産業協会(JEITA)がレポートした「日米IT投資比較分析調査報告書」も,日本企業の及び腰の姿勢を浮き彫りにする形となった。GDPに対するIT投資額を日米で比較すると,米国はGDPに対して3.3%のIT投資,日本は2.3%と1ポイントの開きがある。英国,ドイツ,フランスなどに比べても,この値は下回っている。筆者の知る多くの調査結果は,世界各国に比べて,日本企業のIT投資意欲が論外に低い。果たしてこれで日本企業は,さらに激化するグローバル競争を勝ち抜けるのだろうか。