■商談や開発の打ち合わせで重要になるのがヒアリング。上手なヒアリングのためには、質問力を高めなければいけません。質問力を高めるための具体的な方法論を紹介します。永らくお読みいただいた、この連載も次回で最終回となります。最後の2回は、ちょっとだけ私の昔話をさせてください。

(吉岡 英幸=ナレッジサイン代表取締役)


 私は、今の会社を立ち上げる前、某求人広告系の出版会社で広告営業をしていた。トップ営業マンではなかったが、ヒアリング力だけは誰にも負けない自信があった。それが今の仕事につながっている。

 私がヒアリング力の重要性を身にしみて知り、その基礎をつくったのは、会社員生活4年目のことだった。

 地方の支社ではじめて求人広告の営業を担当した私は、当時どうしようもなく売れない営業マンだった。毎日のように上司にガミガミ言われ、挙句の果てにはオフィス内の特別席(普通は新入社員がすわる上司の真横の席)に移動させられ、次の日の朝から上司との1対1の営業ミーティングが始まった。

鬼(パワハラ?)上司との早朝の格闘

 4年目だというのに、新入社員よりも誰よりも早く来て、上司と1対1で前日の営業報告と今日の予定を打ち合わせするのだ。今で言えばほとんどパワハラ状態。いつか絶対暗闇で襲ってやろうと思っていたが、上司も毎朝それに付き合っていたのだから、今考えると頭が下がる。

 しかし、そのミーティングでまた毎日怒鳴られる。曰く「オマエは何もヒアリングできていない!」 この声がほとんど毎朝のように2人っきりの静かなオフィスに響き渡るのだ。

 当時は、新卒採用のための求人広告を売っていた。地元の中小企業の社長相手に、新卒採用をすすめて、求人媒体の広告を取るのだ。

 求人広告を売るのだから当然聞くことは、「人は欲しいですか?」「人は採れてますか?」「どんな人が欲しいですか?」 これにつきる。

 営業先からしっかり聞き出したこの3点を報告して「この会社は採用ニーズがあります。同行してください」と報告するのだが、上司は「オマエは何も聞いていない!そんなんじゃ売れない!」の一点張りだ。仕方ないので、再度訪問して上記の3つのことをもっと詳しく聞く。

 「どんな仕事をする人が欲しいですか?」
 「人は何人応募してきて、何人会って、何人採れていますか?」
 「求める人物像はどんな人ですか?」

 これだけ深掘りすれば大丈夫だろうと意気揚々と報告すると、またもや「オマエのヒアリングは全然なっとんらん!」

ブチ切れた上司のとった行動は?

 いったいどうすればいいのだ。

上司 「そもそもなんで人が欲しいんだ」
「事業を拡大するためですよ」
上司 「なんで事業を拡大するんだ」
「そりゃ会社ですから」

 こういう会話をしていると、上司はついに切れて「オマエのヒアリングは売ることしか考えていない。売るためだけのヒアリングだ!」と叫びだした。

 そりゃそうでしょ。求人広告を売りに行っているのだから。売るためのヒアリングをするのは当たり前でしょ。

 そしてブチ切れた上司は、私の営業カバンを取り上げ、「こんなものが入っているからいけないんだ!」と言いながら、営業カバンの中から、媒体の見本誌や商品パンフなどの営業資料をすべて抜き取って、営業カバンを空っぽにしてしまった。

 そして、「これで営業に行け!」と空っぽになった営業カバンを私に差し出したのであった。

 「これはもはやマネジメントではない。単なるイジメだ。」と咄嗟に私は思った。しかし、いざ空っぽになった営業カバンを手にしてみると、私の心も少し軽くなった。空っぽの営業カバンを持たされたら、もはや売れなくても何も文句は言われないだろう。という感じで、妙に安心したのだ。

 そして、次の日から本当に空っぽの営業カバンで営業に行くことになった。そして、ほどなく、おもしろいほど売れる日々がやってきたのだ。

 それはなぜか。すいません。いいところで申し訳ないのですが、この続きは最終回をお読みください。ぜひお楽しみにしてください。


著者プロフィール
1986年、神戸大学経営学部卒業。株式会社リクルートを経て2003年ナレッジサイン設立。プロの仕切り屋(ファシリテーター)として、議論をしながらナレッジを共有する独自の手法、ナレッジワークショップを開発。IT業界を中心に、この手法を活用した販促セミナーの企画・運営やコミュニケーションスキルの研修などを提供している。著書に「会議でヒーローになれる人、バカに見られる人」(技術評論社刊)、「人見知りは案外うまくいく」(技術評論社刊)。ITコーディネータ。