●DBソフトというメジャーな市場を選び、独自技術で勝負
●既存製品では満たせない顧客ニーズや用途を開拓
●ハードの性能・技術トレンドを先読みして、ソフト技術を開発

 データベース(DB)ソフト市場で、すべてのデータをメモリー上に置く「オンメモリー型DB」が急成長している。従来製品をはるかにしのぐ高速処理が特徴だ。アイ・ティ・アール(ITR)の調査では、2006年度の国内販売額は前年度の約7億円から約15億円へと倍増。2007年度も4割増もの高成長が見込めるという。

 この製品分野で、38%のシェアを持つトップベンダーが高速屋だ。独自のDB技術を引っさげて、新庄敏男社長が2002年に起業したベンチャーである。

 もっとも、新庄社長にとってDBソフト開発は起業の一候補に過ぎなかった。実は高速屋の前にも、新庄社長は起業を経験している。DBソフトを選んだのは、その経験から導いた「技術ベンチャーの戦い方」を実践するのに、最も適した市場だったからという。

 新庄社長が最初に起業したのは、産業用コンピュータ向けOSの「OS-9」や関連製品を販売していたマイクロボード。1980年代の“ITベンチャー黎明期”に創業した、当時は知られた企業だった。

後発の利でトレンドを先読み

新庄敏男●高速屋社長
新庄敏男●高速屋社長

 しかし、新庄社長は90年代末に同社を事実上清算してしまう。OS-9の市場が立ち上がるまでに先行投資が長引いたうえ、後発企業が参入するとすぐに製品の差異化が困難になったからだ。

 その失敗から新庄社長は次のような教訓を得た。第1に「ベンチャーは新市場でなく、大市場で勝負せよ」、第2に「既存技術のインテグレーションでなく、独自技術で勝負せよ」という2点だ。

 加えて独自技術の開発では、「先行企業に先んじて技術トレンドを読む」、「先行企業が使う既存方式の改善でなく、全く違う方式を選ぶ」ことにポイントを置くべきだと考えた。先行製品と異なる特徴を打ち出せれば、先行製品が逃した顧客ニーズをつかめるからだ。

 高速屋の主力製品である「高速機関」は、新庄社長が独りで基本技術を開発したものだが、随所にその教訓を生かしている。

 例えば、オンメモリー型を採用したのは、新庄社長によると「90年代後半の時点でメモリーの低価格化が続き、PCサーバーの主記憶は今後10年で数Gバイト級に達すると判断できたから」。

 データ処理方式も一新した。高速機関では、従来のDBでは定番の「クイックソート」や「Bツリー」「ハッシュ関数」といったアルゴリズムを一切使っていない。「従来技術はメモリーの節約を前提にしたもの」(新庄社長)だからである。

 その代わりに、メモリーをふんだんに使う前提に立った独自のインデックス技術を開発した。詳細は明らかにしていないが、メモリーでの高速処理に適するよう、あらかじめデータ格納時に参照関係を作ったりデータを圧縮したりする。高速機関の中核技術であり、これによって検索・集計などの処理性能を従来製品の約100倍に高めることができた。

 ハードディスク装置(HDD)の技術トレンドも計算のうちだ。高速機関はメモリー容量を超えるテラビット級のデータも高速に処理できるよう、ディスクのアクセス方法も工夫した。何度もランダムアクセスしてデータを読み書きするのでなく、連続した領域を一度に読み書きすれば済むようなデータ構造を採用したのだ。今後は、シリアル転送速度がランダムアクセスよりずっと高速になると見て開発した技術だ。

 新庄社長は、起業に備えていた90年代後半、このDB技術のほかに3次元画像技術やシステムLSIの設計技術を開発していた。例えば、3次元技術はポリゴンを使わないことで、演算量を減らす独自方式だった。

 どの技術も特色があったが、DBソフト開発を起業に選んだのは、市場の大きさに加え、「圧倒的に高速」と言う先行製品にない特徴が際立っていたからだ。具体的な用途までは想定しなかったが、特徴を打ち出せれば自然とニーズは出てくると読んだ。

 だが製品化してみると、最初の3年間は売り上げが低迷したという。新庄社長自らが客先に持ち込んだ「自作PC」の実演は好評だった(写真)。しかし「我々の思い違いもあり、結局はオラクルなどの代替でしか製品を提案できていなかった」と新庄社長は振り返る。

写真●「高速機関」の原理と、デモに用いた自作PC
写真●「高速機関」の原理と、デモに用いた自作PC
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 しかし、パートナーに名乗りを上げた富士ソフトの販売体制が整ったこともあり、2005年からは既存製品にできない用途を開拓するという営業スタイルが確立する。その一例が、PCの操作ログを高速に分析・記録するセキュリティソリューションだ。大手通信会社などに採用されたという。

 現在は、富士ソフトを経由した2次店の教育・販売体制を整えているところ。オンメモリー型DBの牽引役となれるか、真価はこれから試される。