「B-CASカードの転売防止策を講じないと,地上デジタル放送やBSデジタル放送におけるコンテンツ保護の仕組みが無意味になる」──。2007年8月22日に開かれた総務省の「デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会」の第22回会合で,権利者団体関係のメンバーはこのように発言し,地上デジタル放送などのスクランブルを解除するB-CASカードがインターネットオークションで流通している現状に警鐘を鳴らした。

 B-CASカードの発行や運用を手がけるビーエス・コンディショナルアクセスシステムズ(B-CAS)は,地上デジタル放送とBSデジタル放送のコンテンツ保護技術に対応したテレビ受像機を製造する受信機メーカーに,このカードを配布している。コピー制御信号に反応しない放送受信機である「無反応機」を受信機メーカーが取り扱う場合は,B-CASカードを配布しない。このため録画機能を搭載した無反応機をユーザーが購入してもスクランブルを解除できないため,地上デジタル放送やBSデジタル放送の番組を正常な状態で録画できない。B-CASカードの配布先を限定することによって,無反応機による放送番組の不正コピーを防いでいる。

 ところがネットオークションなどでB-CASカードを入手すれば無反応機を使って現行の地上デジタル放送とBSデジタル放送のコンテンツ保護方式で決められた制限を超えて放送番組をコピーすることが可能になる。このため一部の権利者団体の関係者は,B-CASカードの転売に神経をとがらせている。

 さらに権利者団体は,デジタルテレビなどのユーザーを装えばB-CASからカードを入手できる現状も問題視している。B-CASは所有者がカードを紛失した場合,再発行するようにしている。所有者が意識的に再発行の申請を何度も行って,B-CASカードを他人に譲渡することが可能だ。この仕組みを悪用すれば,無反応機を取り扱うメーカーがB-CASカードを必要な数だけ調達して,無反応機とセットで売り出すといったことも可能になる。

 現時点では,無反応機は日本で流通していないもようである。コンテンツ流通委員会でB-CASカードの転売に関して発言した権利者団体の関係者も,「無反応機が開発されたという話は聞いていない」という。とはいえ近い将来,ケーブルテレビ(CATV)向けの違法チューナーを取り扱う家電メーカーなどが無反応機の開発に触手を伸ばす恐れがある。このため権利者団体の関係者は,悪意のある事業者へのB-CASカードの発行を防ぐ仕組みを早急に構築する必要があると考えているようだ。