マネジメント・プロセスをいかに洗練させようとも、利害関係や人間関係に内在する問題により、リスクが表に出てこないことが多い。中立的な立場のPMOは、メンバーからの相談を引き受け、その問題の調整役となるべきだ。しかし、PMOのスタッフとして「相談しやすい人」と「相談しにくい人」がいる。
高橋信也
マネジメントソリューションズ 代表取締役
「進捗報告では大丈夫と言ったけど、本当はAさんの品質が悪くて危ないんだよな。でも、プロジェクトマネジャのXさんに言っても、『お前が何とかしろ』と言われるだけだし」――。
いくらマネジメント・プロセスを徹底しようが、いくら進捗報告のレベルを改善しようが、人間関係に内在する問題まで炙り出すことはできません。すべてを正直に報告してしまうと波風が立つので、「大人」の対応をしてしまうこともあるでしょう。
「ベンダーBは、できもしない“あるべき論”ばっかりなんだけど、うちの上司は気に入っているし、仕方ないか…。会社同士の関係もあるしなぁ」――。
リスクとして表に出したいことであっても、立場上言えないこともあるのではないでしょうか。リスク会議の場でも、利害関係が絡み合っていると、なかなか本音ベースで話し合うことはできません。
ベテランばかりのPMOは「機能不全」に陥りやすい?!
このような時、中立的な立場のPMO(プロジェクト・マネジメント・オフィス)が受け皿となり、根回し的な調整を行うと効果的です。しかし、PMOのスタッフ構成によっては、うまく機能しない場合が多々あります。
プロジェクトメンバーがPMOに相談しにくいパターンとしてよくあるのは、PMOのスタッフがベテランで固められている場合です。特に、社内のプロジェクトマネジャとして経験の長いスタッフばかりだと、プロジェクトメンバーが相談を持ちかけても、逆に説教されてしまう恐れがあります。また、PMOのスタッフが、いわゆる管理色の強い人だと、相談しても動いてくれないとか、通り一遍の対応しかしてくれないという場合もあります。
こうした問題が出てくるのも、「PMOとして何をどこまでやるべきか」というPMO自らの立ち位置に、明確な指針が示されていないことが一因だと思います。この連載では、これまでPMOの機能を生かすための事例を紹介しながら指針を述べてきました。
ただし、いくらPMOの機能や指針が明確になったとしても、その機能を担う人が適切に配置されていなければ、うまく作用しません。では、どのようなスタッフィングを行うべきでしょうか。
「マネジメント経験年数5~10年」「志のある人」が適任
私はPMOのスタッフィングを考える際、いつも3つの層に分けて考えています。(1)事務局的な役割を担う層、(2)管理プロセスや管理標準を導入する層、(3)さまざまな問題解決を促進する層です。それぞれの層に対するスタッフィングを考えると、各層の役割が明確になり、どのようなスキルや経験の人が適当か分かりやすくなります。
「人間関係に内在する問題を調整する」という今回のテーマにおいて重要なのは、問題解決を促進する層に充てるスタッフです。当然、プロジェクトマネジメントの経験者が望ましいことは言うまでもありません。
しかしながら、前述した通り、経験豊富なスタッフだとプロジェクトメンバーが相談しにくい場合があります。逆に、若すぎて未熟なスタッフだと、アドバイスを聞き入れてくれないこともあるでしょう。私が最適だと思う人材像は、プロジェクトを客観的な立場で見ることができ、相談もしやすい「マネジメント経験年数5~10年」、年齢で言うと「20代後半から30代くらい」のスタッフです。
もちろん、そのスタッフの経験内容も考慮すべきですが、将来的にプロジェクトマネジャとしてのスキルを身に付けたい人、プロジェクトマネジメントを極めたいという志を持っている人であれば適任だと思います。プロジェクトマネジャの志願者が少ないという話もよく耳にしますが、PMOという場で経験を積み、いつかプロジェクトマネジャとして巣立っていくことを願ってやみません。
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