著者:林 信行=ITジャーナリスト

 iPhoneを購入すると,ブログで自分のiPhoneを自慢げに紹介する人やパーティなどの場で見せびらかす人が多い。発売開始の1週間前から行列を作ってまで待つ人もいた。そういう人たちが集まると,「iPhoneはここがすごい」,「いや,○○なところがいい」とそれぞれのiPhone観を語って熱くなる。いったい何が,人々をそこまで感情的にさせるのだろうか。今回は,iPhoneを魅力的に演出するアップルのブランド戦略について取り上げよう。

最初の対面をドラマチックに演出する

 iPhoneの特徴は,美しい意匠や優美なインタフェースであるのは間違いないが,それだけがすべてではない。ユーザーを最初に感動させるのは,パッケージを開封する瞬間だ。この開封の儀式の様子を写真に撮って自分のブログに掲載する人も少なくない。

 アップルは,この出合いの瞬間をドラマチックに演出するために,パッケージにはかなりのコストをかけている。まずは化粧箱そのものが美しい。黒く重厚なふたの真上には実物大のiPhoneの写真が印刷され,ホームボタンの部分は「触ってくれ」といわんばかりに凹んでいる(写真1)。

写真1●iPhoneのパッケージ   写真1●iPhoneのパッケージ

 重厚なふたを取り外すと,ユーザーはいきなりiPhoneの実物とご対面となる。威厳たっぷりのiPhone本体は,この出合いの瞬間だけのために用意された,これまた重厚な透明プラスチックの台座の上にきれいに飾られている。プラスチックの台座には,黒い封筒がついており,開けるとマニュアルならぬ紙1枚の解説が現れる。この紙にはきれいな写真が多く,見ているだけでも楽しい。

 そして液晶を拭くためのクロスと,また1つアップル製品を買ったことを実感させるアップル社ロゴのシール。封筒の下には,ACアダプタとドック,ヘッドホンとUSBケーブルが,漆黒の菓子器に盛りつけられた細工菓子のように美しく飾られている。

 このようにアップルは,iPhoneのパッケージ作りにおいても気を抜くことなく完璧に作り込むことで,「さすがアップル製品はおしゃれだ」とユーザーを納得させ,iPhoneという商品自体の「ブランド力」も高めている。これは,他の端末メーカーがなかなか真似できないポイントだ。