「○○地方に、まもなく大きな地震が来ます。安全の確保をしてください」。

 このような情報を教えてくれる緊急地震速報が、10月1日から一般にも配信されるようになる(関連記事)。いままでは一部の企業や団体が試験的に配信を受けていたが、今後はテレビやラジオ、商業施設などでの放送での周知が始まる。

 一般向けの開始が近づくにつれ、配信サービスに名乗りを上げる企業が続々と出てきた。また、「受信後のパニックをどのように回避するのか」、といった話題も増えてきた(関連記事)。

 そこで、筆者も一足先に、緊急地震速報を試してみることにした。自宅で加入しているブロードバンド・サービスで、トライアルを実施していたのだ。緊急地震速報の配信事業者が提供している「なまずきん」というパソコン・ソフトに自分の居場所をあらかじめ登録。そこで震度3以上の揺れが予想される場合に警報が流れる。

 導入が完了しおよそ半月たった8月18日、ついにその時がきた。午後1時36分、「緊急地震情報を受信しました!」--。毅然とした女性の声で、パソコンからアナウンスが流れてきた。

 はっきり言って、とても緊張した。

 いままで10回以上は緊急地震速報のデモを見てきたが、実際の地震で受信したのは初めて。パソコンの画面に目をやると、揺れるまでの猶予時間は「10秒」(実際には、12秒前に警告が出ていたことが後で分かった)。「げっ!」と思ったが、筆者の地点での予測震度は「3」だったので少し安心した(写真)。

写真●なまずきんの画面(シミュレーション・モードでの再現)
写真●なまずきんの画面(シミュレーション・モードでの再現)

 とっさには行動できないものだ。パソコンの画面を眺めているうち、2、3秒が過ぎた。まずは急いで、リビングにいた家族に地震の発生を伝えにいった。

家族:「何あわててるの」
筆者:「地震が来る!地震!」
家族:「来てないよ」
筆者:「これから来るの!」
家族:「嘘でしょ。何言ってるの?」
筆者:「本当だって」

 ゆらゆら~。

家族:「あら本当だ。すごい!」

 地震は千葉県東方沖を震源とするもの。気象庁のホームページで実測値を調べてみると、埼玉県にある筆者の自宅周辺では震度1だった。予測震度は3でずれがあったが、揺れの時間はほぼ一致した。地震の被害をもたらすS波(主要動)は秒速3k~4km。時速に直すと、およそ1万~1万5000弱kmとなる。ジェット機の10倍以上の速さで伝わってくる。

 実際に緊急地震速報を受信してみた感想は、「何をしていいのか、分からない」ということだった。記事では防災関係者への取材を基に「10秒間でも、身を安全なところに隠したり、コンロを消す、などの対策がとれる」と書いているが、そもそも机の下が安全かどうか確認をしていないし、家族と訓練もしていない。

 やはり、活用するには、普段から緊急地震速報を組み入れた訓練が必要だろう。例えば、仙台市の小学校では、緊急地震速報の発報を起点とした防災訓練をしている。それも、新入生がやってくる毎年4月に実施しているという。

 このほか、防災関係者の取材を進めてみると、緊急地震速報には大きく2つの課題があることが分かった。

 一つが緊急地震速報の発報を広く周知するための「サイン音」。テレビのニュース速報を思い浮かべていただければ、分かりやすいだろう。気象庁、テレビ局、通信会社などが議論を重ねているが、ほとんどの機関がサイン音を統一する考えがないのだという。

 しかし、家の中やオフィス内には様々な電子音が飛び交っている。各機関で異なる音を流していたら、果たして緊急地震速報に気づくことができるだろうか。避難行動を数秒間遅らせることにはならないだろうか。

 もう一つが、受配信インフラの信頼性だ。トラブルで受信できないという事態を避けなければならない。しかし、いくつかの問題が出ている。

 例えば、7月に発生した中越沖地震では、震源からほど近いユーザーで受信できなかったケースがある。端末のIPアドレスの設定が間違っていたという。また、地震情報のフォーマットが変わるなどの影響で、ごく一部だが配信を受け取れない端末があるという。

 こうした問題が起きないよう、配信事業者や端末メーカーは、ユーザー側の端末が情報をきちんと受け取れているか、チェックする機能を実装すべきではないだろうか。ユーザー側でも仙台の小学校のように、定期的に緊急地震速報を起点にした訓練を行うことで、問題をあぶり出せる。配信事業者のセンター側から訓練用の信号を特定のユーザーに出すことができるという。

 緊急地震速報は、人命や資産を守る重要な情報サービスである。もはや「売りっぱなし」、「置きっぱなし」では、済まされない。