7月22日から28日、米国での先進的な医療ITを視察してきた。訪問したのは、米国でも最も医療ITが進んだ地域として名高いボストン。約一週間の間に、先進的な施設であるベスイスラエル長老派教会メディカルセンター救急部門、退役軍人省病院、医療ITサービスネットワークを提供している「ケアグループへルスケアシステム」、および「パートナーズヘルスケアシステム」などを見聞した。現地で接してきた医療ITの先進的な事例をレポートする。(橋澤 満貴=インターシステムズジャパン)

米国医療の最新トレンド---“Connected Healthcare ”の確立への取り組み

 手前味噌になるが、各施設を視察する前に、まず米国本社のInterSystems社を訪れ、米国の医療環境と最新動向などの説明を受けた。簡単に米国本社について触れるが、InterSystems社は、約30年に渡りデータベースやインテグレーション技術を提供しており、医療分野で使われているデータベースプロバイダーの最大手でもある。これまで、多くの国レベル、地域レベルの医療連携プロジェクトにも参加している。

 まず、医療における課題は、医療費の削減と患者のケアの質と医療の安全の向上――と世界共通である。特に医療連携を始めとする”Connected Healthcare ”(接続された医療)の確立が重要で、その課題克服のためにIT活用が必須であることは共通認識ともいえる。”Connected Healthcare”への取り組みが急速に進む流れの中で、IT構築の取組みのトレンドとして、InterSystems社の戦略立案担当副社長ポール・グラブシャイは、以下の6つを挙げた。

  • 患者のセルフサービス
  • 根拠に基づいた医療
  • 医療の品質の透明性の確保
  • セキュリティーとプライバシー
  • バイオメディカル機器(各種測定機器)との電子診療記録とのインテグレーション
  • RHIO(地域医療情報交換組織)

 これらの取組みについて今回、医療施設や組織でそれぞれ具体的に視察できたので、そのいくつかについてのポイントを前・後編に分けてレポートする。

患者セルフサービス---「ケアグループ」のWebベースの患者サービス

 患者のセルフサービスとは、患者自身にシステムを使わせることで、予約、診療記録閲覧、処方せん依頼などが行なえるものである。あわせて、患者への情報提供、利便性とサービスの向上も図れるため、医療機関が患者取り込みのための差別化サービスとして提供するケースも多いという。

 「ケアグループへルスケアシステム」(以下、「ケアグループ」)は、毎年米国ベストホスピタルの上位に選ばれている(*1)ベスイスラエル長老派教会メディカルセンターをはじめとする5つの主要病院が加盟している。また、ハーバードメディカルスクールの教育病院としての機能も有しており、米国の先進医療ITの中核を担っている。現在、マサチューセッツ州東部を中心に、医療機関や開業医に医療ITシステムとネットワークサービスを提供している。今回、「ケアグループ」のCIO兼ハーバードメディカルスクールCIOで、米国医療ITの重鎮と言われる、ジョン・ハラムカ氏に話を聞いた。

 「ケアグループ」では、Webサイト“Patient Site”で、患者セルフサービスを提供している。患者はWeb経由で、“Patient Site”にログインし、自身の電子診療記録の閲覧、診療予約、既に出されている処方せんの更新などの依頼などが可能となっている。処方せんについては、医師の承認が出ると、指定された薬局へ電送され、患者は翌日には、その薬局で薬を受け取ることができる。また、“Patient Site”を通じて医師へのメッセージも送付できる。