著者:林 信行=ITジャーナリスト

 iPhoneの最大の特徴は,先進的なユーザー・インタフェースと使いやすさだろう。これまでにもタッチパネルを使った機器はあったが,使い心地の点ではiPhoneの足下にも及ばない。機能が充実している割には初めて使う人でも,ほとんど迷うことなく操作ができる。アップルのスティーブ・ジョブズCEOも,「Macでのマウス操作,iPodでのクリックホイールに続く,3度目のインタフェース革命をもたらした」と,iPhoneのユーザー・インタフェースの良さを強調する(写真1)。その自信の現れか,iPhoneにはマニュアル本が付属されていない。操作の概略を解説した大きな紙が1枚入っているだけだ。なぜアップルはこんなユーザー・インタフェースを作れたのか。今回は,アップルのユーザー・インタフェース設計哲学の背景に迫りたい。

写真1●アップルのユーザー・インタフェースの革命   写真1●アップルのユーザー・インタフェースの革命
スティーブ・ジョブズCEOは,「アップルは3度ユーザー・インタフェースの革命をもたらした」と,2007年1月のiPhoneの発表会で語った。

ハードとソフトの絶妙な掛け合い

 アップル製品の最大の特徴といえば,ハードウエアとOSの境界線を感じさせないことだ。例えばiPhoneの操作は,タッチパネルを備えた同様の機器と比べると,指の動きへの追従が滑らかだ。これは,ハードもOSもアップルが作っているからという理由が大きい。ハードの調整だけでできるわけでもなければ,ソフトの調整だけでもできない。スティーブ・ジョブズCEOも,「革命的なユーザー・インタフェースは,ハードとソフトの絶妙な掛け合いで実現している」と強調している(写真2)。

写真2●優れたユーザー・インタフェースはハードとソフトの相互作用   写真2●優れたユーザー・インタフェースはハードとソフトの相互作用
スティーブ・ジョブズCEOは,「iPhoneのユーザー・インタフェースはハードとソフトの絶妙な掛け合いで実現している」と,2007年1月のiPhoneの発表会で語った。

 iPhoneのカメラ機能は写真をフラッシュ・メモリーに書き込むときに,もたつく。しかし,シャッターを押した瞬間に画面に楽しい羽絞りのアニメーションが現れるため,もたつきを感じさせない。iPhone本体の向きを変えると,それに合わせて画面の向きが変わる加速度センサーによる画面回転機能なども,ハードとソフトの見事な融合の一例と言えよう。

 一方,スマートフォンの中には米マイクロソフトの「Windows Mobile」など,他社が用意した汎用OSを使う端末がある。汎用OSは,仕様書に書かれたとおりの機能は提供するだろうが,その使いやすさや使い心地の質までは保証してくれない。製品に採用した後で気に入らなくても,端末メーカーが手を出せるのは自社開発したソフトまでで,OS依存の機能についてはOSメーカーに要望を出すことしかできない。