NGNの上位層であるサービス・ストラタムは,実際のサービスでは「サービス・プラットフォーム」という形で構築される。一つの基盤上に様々なアプリケーションを実現するためにAPIを整備し,それらをオープンにしていく環境が不可欠になる。

 NGN(次世代ネットワーク)は新たなサービスを生み出す基盤として期待されている。ITU-Tが定義するNGNの特徴は六つ(図1)。中でも重要なのは,高速・大容量なネットワーク・インフラを提供する部分とアプリケーションのためのサービス・プラットフォームを分離していることだ。NGNの定義ではそれぞれ「トランスポート・ストラタム」,「サービス・ストラタム」と呼んでいるが,これらはあくまでも階層の名前であり,そのアーキテクチャーによって実現される機能や製品,システム,サービスなどを表さない。そこでここではそれぞれ「ネットワーク・インフラ」,「サービス・プラットフォーム」とし,以降の連載では,この表記で統一する。

図1●NGNの六つの特徴とそれによって生み出されるもの
図1●NGNの六つの特徴とそれによって生み出されるもの
「ネットワーク・インフラ」と「サービス・プラットフォーム」が分離独立する。
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 今回の主題はサービス・ストラタムを形作るサービス・プラットフォームである。

 電話交換網など従来のネットワーク・アーキテクチャーでは,ネットワークとそれを制御するネットワーク・サービス(認証や課金など)は分離されていなかった。そのため,固定網,移動網などネットワークごとにサービスが構築されていた。そこで,NGNアーキテクチャーでは,ネットワークからネットワーク・サービスを分離して共通化し,ネットワーク・インフラの構造に影響されることなく容易に新しいサービスを構築できるようにしている(図2)。ネットワーク・インフラに依存せず,上位のアプリケーションに対して柔軟にサービスを提供できる共通的なサービス基盤が「サービス・プラットフォーム」なのである。

図2●サイバーエージェントが導入したNECの仮想PC型のシン・クライアント・システム
図2●NGNのアーキテクチャー
従来はサービスごとに別々のネットワークを作っており,新しいサービスの追加には多大な労力や資源を必要とした。NGNのアーキテクチャーでは共通のネットワーク・インフラを使うことにより,新しいサービスを容易に構築できる。
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個人・企業・社会へのインパクト

 では,このアーキテクチャーの変化やサービス・プラットフォームの登場は,市場に対して具体的にどのような変化をもたらすのだろうか。

 NGNは,いつでもどこでも安心・安全につながり,広帯域の通信サービスを高コスト・パフォーマンスで利用できるネットワーク環境として期待されている。例えば,個人のホーム・サーバーに対して,地球の裏側からモバイル端末でアクセスし,オンデマンドで高精細なストリーミング映像を見るなど,様々な利用ニーズが増えてくる。

 このような消費者のライフスタイルの変化に合わせて,企業や行政も,ITとネットワークを融合させた新たなビジネス・チャンスをにらみ,タイムリーにシステムを変革していくことが求められる。しかし,これまでのシステムでは,セキュリティやQoS,信頼性の向上などは企業ごとに個別に対応していたため,投資コストや開発期間などに問題があった。

 それに対してNGNでは,これらはサービス・プラットフォームとして共通的に提供されるようになり,企業や行政にとって,より柔軟なシステムが,短期間で構築できるようになる。さらに,認証や映像配信などの基盤もサービス・プラットフォームとして提供されることで,企業間のシステム連携も今以上に進めやすくなる(図3)。これにより,金融や流通,製造など,様々な分野において企業の異業種間連携が進むと考えられる。

図3●NGNによって広がる多様なサービス
図3●NGNによって広がる多様なサービス
様々な企業・個人・社会向けサービスがサービス・プラットフォームを核として創造され,発展していく。
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三栖 利之(みす・としゆき)
NECネットワークソフトウェア事業本部
ネットワークサービスシステム事業部事業部長代理
1984年,NEC入社。局用交換機,インテリジェント・ネットワーク,VoIPに関連するソフトウエアの開発に従事。現在,SDP関連ソフトウェア製品の開発と事業推進を担当。

逸見 直也(へんみ・なおや)
NECマーケティング本部 グループマネージャ
1985年,NEC入社。超高速長距離光通信技術の研究開発,製品企画に従事。1997年工学博士。2003年から現部門。IT・NW統合ソリューション企画,およびNGN関連事業全社推進を担当。