IMSはNGNにおけるサービス提供プラットフォームである。アクセス網やユーザーがどこにいてもサービス提供可能なアーキテクチャーを持つ。既に携帯電話向けのプッシュ・ツー・トーク・サービスなどに使われており,FMC(固定・移動通信の融合サービス)の提供基盤にもなる。

 次世代ネットワーク(NGN)のネットワーク・サービスはIMS/MMDのプラットフォーム上で実現される。IMS/MMDは第3世代携帯電話の標準化を行う3GPP/3GPP2において移動体網向けに開発された技術。IMSを導入することにより,音声や映像などのマルチメディア・サービスを,携帯電話や無線LANなどの様々な端末に対して,アクセス網に依存せずに提供できる(図1)。そういった特徴から,固定網と移動体網を統合するプラットフォームとして注目されている。

図1●IMSは様々な端末に対してアプリケーションを提供するのに役立つ
図1●IMSは様々な端末に対してアプリケーションを提供するのに役立つ
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 これまでの電話網では,電話交換機がダイヤルされた電話番号に基づいて回線を接続する回線交換方式で電話サービスを提供している。しかし,インターネットの普及とブロードバンド化に伴い,電話サービスも含めてIPベースのパケット交換方式を使って提供されるようになってきている。IPベースのパケット交換方式は,回線交換方式に比べ,安価かつ柔軟に新しいマルチメディア通信が提供可能になる。通信ネットワークのオールIP化によって,低コストで柔軟なマルチメディア・サービスが提供できるのである。

 また従来のネットワークでは,ネットワークとそれを制御するネットワーク制御サービス(認証や課金,メディア制御,各種サービス)は密接に結び付いていたため,固定網,移動体網などネットワークごとにシステムが構築されていた(図2)。IMSを使うと,ネットワーク制御・サービスを分離して共通化し,アクセス網などのネットワーク構成に影響されることなく容易に新しいサービスを構築できるようになる。このように,ネットワーク・インフラに依存せず,上位のアプリケーションに対して柔軟にサービスを提供できる共通的なネットワーク制御基盤がIMSなのである。

図2●従来のネットワーク構成とIMSのネットワーク構成
図2●従来のネットワーク構成とIMSのネットワーク構成
IMSはネットワーク・インフラやサービスに依存しない共通のプラットフォームになる。
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IETFのSIPを採用

 IMSはインターネットのプロトコルを策定しているIETFから,多くのインターネット技術を取り入れている。IMSの中核となるセッション制御にはシンプルかつ柔軟なSIPプロトコルを,ユーザー認証のためのインタフェースにはDIAMETERプロトコルを採用した。このため,IMSは3GPPとIETFの協同作業によるものと言える。IETFがSIPなどのプロトコル仕様を作成し,3GPPがアーキテクチャー規定とプロトコルの統合を行っているのである。これにより,アプリケーション・サーバーは,インターネット用に開発されたアプリケーションやコンテンツを容易にIMS上で利用できる。

 つまり,IMSはインターネットの技術に通信事業者の通信にとって必要な(1)QoS制御,(2)柔軟な課金メカニズム ,(3)統合サービスの提供などを可能とし,インターネットの技術を用いた新しいサービスを創出するプラットフォームなのである。

2000年に始まった標準化

 3GPPにおけるIMSの標準化は2000年に始まった。最初のIMS技術仕様は2002年に3GPPリリース5として制定された。その後機能が追加され,2005年に3GPPリリース6として制定。現在は,3GPPリリース7に向けた機能追加が検討されている(2007年内にリリース予定)。

 また,CDMA2000の技術仕様を作成している3GPP2においても,3GPPのIMSをベースとした仕様が,MMDという名称で標準化されている。ITU-T(国際電気通信連合電気通信標準化部門)やETSIにおいて検討が進んでいるNGNの標準化では,IMSをベースにQoSやIPTVなどのマルチメディア・サービスを実現するための追加機能などが検討されている。

IMSの中核を担うCSCF

 IMSアーキテクチャーの大きな特徴は,IMSとアクセス網が独立に構成されている点にある。このことにより3GPPで定義するPS Domain(パケット通信)からのアクセスだけでなく,3GPP2の無線網,無線LAN,さらには固定網(ADSL,光など)からのIMSへのアクセスが可能になる。これがIMSシステム自体の価値を大きく高めることに貢献している。

 IMSには様々な機能エンティティがある(図3表1)。その中で中核を担う機能がセッション管理機能(CSCF)である。端末から発信されたSIPメッセージは,端末が存在するネットワークにあるP-CSCFから,ホーム網のS-CSCFに送られ,ホーム網のS-CSCFでメッセージの分析を行う。その結果,S-CSCFは着信側のS-CSCF,またはMGCFにSIPメッセージを送信し,通信サービスを提供する。また,S-CSCFはユーザー登録時に加入者プロファイルをHSSからダウンロードすることにより柔軟な呼制御を可能とする。

図3●IMSのアーキテクチャー
図3●IMSのアーキテクチャー
セッションを管理するCSCFが中核になる。
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表1●IMSの機能エンティティ
表1●IMSの機能エンティティ
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 また,P-CSCFはアクセス網とのインタフェースを持っており,トランスポート・ネットワークに対してQoSの設定が可能である(図4)。

図4●IMSのメッセージ手順例
図4●IMSのメッセージ手順例
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原 広明(はら・ひろあき)
NECキャリアネットワーク企画本部 マネージャー
1985年NEC入社。局用交換機,3Gコア,SIP,IMS,プッシュ・ツー・トークのソフトウエア開発に従事。1995年から3年間,TINA-Cに参加。2006年4月から現部門。NGN/IMS事業推進を担当。