千葉県八千代市にある「東京女子医科大学 八千代医療センター」は市民病院的な色彩を持つ地域の中核病院だ。2006年12月に開院した同医療センターはオーダー電子カルテ看護システムを中心に、院内のすべての機能を連携させた医療ITシステムを導入、フルオーダリング、ペーパーレス、フィルムレスを実現している。ここでは、同医療センターにおける医療ITシステム導入の経緯とその効果について検証する。


 2006年12月、千葉県八千代市の急性期医療を担う中核病院として、東京女子医科大学 八千代医療センターが誕生、診療を開始した。同医療センターの開院前まで八千代市では入院医療と救急医療は市外の医療機関に頼る割合が高く、救急・高度医療と入院施設の整備が市民の長年にわたる念願になっていた。そのため、八千代市の誘致を受ける形で、開設された同医療センターは市民病院的色彩が強く、地域医療機関との機能分担・機能連携による地域完結型医療、第3次救急医療に準じた24時間365日の救急医療を実施。またハイリスク出産等に対応できる総合周産期母子医療センター等を設置すると共に、最近、病院や医師不足の小児科、内科、産婦人科に力を入れ、地元医師会と協力して、共同で夜間診療を行っている。

院内の各所にある、視覚的にわかりやすいサイン
院内の各所にある、視覚的にわかりやすいサイン

 同医療センターでは質の高い効率的な医療の提供と病院業務の効率化を図るために、オーダー電子カルテ看護システムを中心に、医療ITシステムをフル導入した。システム化にあたっては、(1)情報の共有とチーム医療の実現(2)病院業務運用の分担・連携の支援(3)診療データの活用による標準医療の策定(4)入院患者、来院患者への各サービスの提供とインフォームドコンセントの充実(5)各種チェック機能による安全性の向上(6)病院経営の効率化と健全化、の6つを主目的に、患者、医療従事者、病院経営それぞれの利便性を視野に入れて、システムを構築した。

 例えば、クリニカルパスによって、検査や外来、入院患者に対する医療行為、入退院の指導などすべてを標準化。それをもとにITで情報を共有し、ドクター、コメディカル、看護師がチーム医療を行うために役立てられるようにしている。また、経営管理システムも導入、病院経営のために、収支状況がひと目で分かるようになっている。加えて、入院病棟のベッドサイドにはPC端末を1台ずつ設置して、患者が好きな食事を選ばせたり、VOD(ビデオ・オン・デマンド)でビデオを見られるようにするなど、入院患者が苦痛を感じることがないようなホスピタリティを確立している。

電子カルテは最小限のカスタマイズで

 東京女子医大が八千代医療センターの建設が始まったのは2005年3月、建設工事と並行して、システム化の目的と要件を決め、コンペを行った結果、富士通の電子カルテシステム「HOPE/EGMAIN-EX」を導入することに決めた。

副院長で外科診療部長の城谷典保氏
副院長で外科診療部長の城谷典保氏

 副院長で外科診療部長の城谷典保氏は富士通を選んだ理由について、「電子カルテシステムを中心に、多くの病院で導入されており、そこで様々な積み重ねがあることから、使い勝手など一番こなれていると判断した」と話す。

 「IT化でまず念頭に置いたことは、“21世紀初の大学附属病院として、診療情報のIT化のみならず、ファシリティマネジメントを含めたIT化から、厨房設備管理、駐車場管制など、ITを駆使した病院全体のマネジメント・システムを構築する”とのコンセプトで進めた」(同センター事務長の井上透氏)。

 そのIT化の実現に際して留意したポイントについて井上氏は、「システムが簡単に陳腐化しないことと、併せてアップグレードが容易であること」「費用対効果上のバランスを突き詰めて、明らかに効果が認められること」「電子カルテについては、原則的にパッケ-ジとして汎用性を重視したものを導入、かつ最小限のカスタマイズにとどめたこと」とする。わけても、電子カルテは「現時点において医療現場に即応した、使用しやすいものがなかなかないことが分かっており、また今後は、大きな改良が必要なことが明白だったため、病院の特殊性を考慮しすぎると、今後のアップグレードの際に割高なコストが見込まれたため最小限のカスタマイズでとどめた」と付け加える。

20以上のワーキンググループでそれぞれのマスターを作成

情報システム課係長の手塚信一氏
情報システム課係長の手塚信一氏

 導入の過程では、外来、入院、手術などの医療業務ごとに20以上のワーキンググループを作り、業務の流れを決めるとともに、システムの内容を検討していった。ワーキンググループはそれぞれ20人ほどで構成され、医師、看護師、コメディカル、ME、事務と院内の全部門のスタッフが必ず参加した。議論は現場の意見や要望を出して、それを集約することを基本にして進めた。そして、そこには富士通のSEにも参加してもらい、パッケージを生かして、できるだけカスタマイズせずに使えるように、様々なアドバイスを受けた。そして、病院の機能ごとに業務を標準化、最終的には500種類以上のマスターを作成した。マスターは医療行為に関わるものが8~9割、画面設定などシステムに関するものが1~2割となっており、例えば、外来処置行為では実施場所ごとに異なるなど、非常に細かく作られている。

 情報システム課係長の手塚信一氏は「最も難しかったのは、手術のマスター作成。医療行為、特に、手術は医師によって、1つひとつの行為の呼び方も違う。その結果、様々な要望が出てきて、結局、ワーキンググループでは決めきれなかった。そこで、医師に要望点をすべて出してもらい、最終的に事務長が判断。診療報酬との関係で、点数化し、手術マスターを決めた」と語る。

入院期間の半減やカンファレンスの簡単化などの効果を発揮

 こうして、2006年12月開院と同時に、導入したオーダー電子カルテ看護システム(HOPE/EGMAIN-EX)を中心に、外来から、物流管理、地域連携、薬局、手術、放射線、各検査、医事会計、経営管理まで同医療センターの機能すべてを連携させた病院情報システムが稼働を開始、現在までトラブルなく、順調に運用されている(最下部の図参照)。

診察室の電子カルテ・インターフェース
診察室の電子カルテ・インターフェース

 同医療センターのポータルからログインすることで、院内の全情報にアクセスすることができる。例えば、放射線画像を見たり、検査結果を知りたい場合には、患者名をクリックするだけで、表示される。これによって、X線フィルムや資料をいちいち探す必要がなくなったため、朝のカンファレンスが非常に簡単になり、研修医の雑用も減ったとする。これによって、チーム医療の準備が簡単にできるようになった。

 さらに、クリティカルパスを事前に作成した上で、システムを導入したことで、患者の入院期間を大幅に短縮することができた。城谷氏はITシステム導入の最大の効果について、「東京の女子医大本院では入院してから、検査をするが、ここでは入院前の外来で検査をすませる。そして、クリティカルパスで入院の翌日には手術というように決まっているため、入院期間も通常で1週間程度と、本院の半分以下になった」と胸を張る。