Appleが6月29日に,メディアが大騒ぎする中でiPhoneを一般にリリースして以来,筆者は大きな話題を呼んでいるこのデバイスをテストしている。iPhoneのいくつかの機能は本当に素晴らしいのだが,Appleが同デバイスで採用している一般大衆向けの技術の中に,ビジネス・ユーザーにとって魅力的なものは特にない。実際のところ,「iPhoneは,少なくとも従来の意味においては,決してスマート・フォンではない」と筆者は断言してもいいくらいだ。

 その代わりに,iPhoneは,自分の部屋などに設置するWindows Media Centerパソコンの携帯電話版だと考えるといいかもしれない。確かに,Media Centerパソコンは,表面的には仕事に使われるPCによく似ている。しかし,実際には,Media CenterパソコンはiPhoneと同じように娯楽のためだけに使うものであり,仕事に使うものではない。この説明だけではよくわからないという人は,記事を読み進めてほしい。

 iPhoneをビジネス用途に使うには限界がある,ということを理解するのに,それほど長い時間はかからないだろう。同デバイスは,他の管理された企業向け電子メール・ソリューションはもちろん,箱から出したばかりの状態のMicrosoft Exchange Serverとも,全く互換性がない。互換性を持たせるには,多くの企業が認めていないIMAPサポートを有効にする必要があるのだ。確かに,Exchangeとの互換性を実現するサードパーティのソリューションも登場しているが,これらのソリューションは小規模であまり知名度のない企業によるものである。現在Windows MobileやBlackberryを使っている人が,そうした企業によるサービスのパフォーマンスや信頼性を判断基準にして,iPhoneに乗り換えたいと思う可能性は低い。

 実際に,iPhoneはいかなる形でも中央管理されておらず,Appleの消費者向けメディア管理アプリケーションであるiTunesを通して,アクティベーションと同期を行う必要がある。それは,家庭にいる子供にとってはいいことかもしれない。だがiPhoneは,いかなる企業展開もサポートしていないのだ。換言すると,iPhoneには企業分野で成功する見込みが全くないのだ。

 現在利用できる数少ないiPhoneアプリケーションには(デフォルトのiPhoneアプリケーションを制限するのはもちろんのこと,新しいアプリケーションをインストールしたりダウンロードしたりすることさえできない),指で簡単かつ直感的に操作できる,見栄えのいいズームやリサイズの効果がふんだんに使われている。しかし,内蔵アプリケーションの多くは,こっけいなほど消費者志向なのだ。YouTubeだって? 本気かい? 写真や音楽のコレクションを簡単な操作で次から次に開いていくのは最初は楽しいかもしれないが,そんなことはそれほど頻繁にはしないのではないだろうか?

 出張の多いビジネスマンの興味を引くかもしれないiPhoneのアプリケーションもないわけではないが,それらにも制約がある。例えば,ネイティブの「Google Maps」アプリケーションは素晴らしい。しかしiPhoneはGPSを搭載していないしサポートもしていないので,同アプリケーションは見掛け倒しに過ぎない。

 さらに,同デバイスの同期機能は,非常に限定的なものである。OutlookクライアントでExchangeを使っていて,IMAPを有効にしてもかまわないという人でなければ,iPhoneの電子メール機能を使うことはないだろう。Calendar(予定表)とContact(連絡先)は正常に機能するはずだが,iPhoneにはTask機能が全く存在しない。

 筆者が言いたいのは,大げさな宣伝に惑わされるべきではない,ということだ。もう一度言うが,iPhoneはスマート・フォンではない。iPhoneは,おそらく多くの人が使っているであろうExchange Serverと統合可能なデバイスではないし,同デバイスはいかなる方法でも管理することができないのだ。提供されている機能も,企業向けのものよりも,消費者向けの便利で細かい機能に重きが置かれている。

 確かに,iPhoneはおしゃれだし,入念に設計されてもいる。興味深くて,時にはびっくりさせられるようなモバイル技術も提供されている。それでも,iPhoneはスマート・フォンではないのだ。この事実を理解できると,iPhoneは,読者の皆様が現在使っているソリューションの代替品には決してなり得ないことがわかるだろう。これから言うことを,筆者の後について言ってほしい。「iPhoneはスマート・フォンではない」。

■変更履歴
当初,「Appleが7月29日に(略)iPhoneを一般にリリース」としていましたが、「6月29日」の誤りです。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2007/09/04 18:50]