クレディ・スイス証券株式調査部ヴァイスプレジデント 福川 勲氏 福川 勲氏

クレディ・スイス証券株式調査部ヴァイスプレジデント
アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)、大和総研を経て現職。現在、ITサービスセクターの株式調査を担当。

 ITサービス業界では、数年前から「業界再編」がキーワードになってきた。2002年以降、ITブームの収束後に受注単価が低下し、不採算案件が頻発したのは、「供給過多による過当競争」が原因──との見方があったことが、その背景にある。そのため2003年度以降、ITサービス主要各社は、 M&A(企業の合併・買収)を経営戦略上の有力なオプションとして位置付け、中にはM&Aを織り込んだ中期経営計画を立案する企業も散見されるようになった。

 その後、確かに局所的には再編は実現した。2005年には住商情報システムと住商エレクトロニクスが合併し、2006年は伊藤忠テクノサイエンスと CRCソリューションズ、2007年には三井情報開発とネクストコムの合併が実現した。ただし、全体としては業界再編が進展したと言うにはほど遠いのが現状であろう。

 一方、株式市場では「業界再編」は、息の長い投資テーマである。例えば、昨年は鉄鋼業界に対する業界再編への思惑が株式市場で浮上し、株価の高騰をもたらしている。こうした相場環境の下、ITサービス各社のマネジメントがM&Aに対して強い意欲をにじませていることを勘案すると、ITサービスセクターが「業界再編」の切り口から株式市場で注目を集め、良好な株価パフォーマンスとなっても決して不思議ではない。

 しかし現実は異なる。ITサービスセクターでは、前回(3月30日号)の本稿でも述べた「好況下での株価低迷」が依然続いているのが現状だ。ITサービス各社の業績は全体としては絶好調である。我々が業績動向をウオッチしているITサービス主要企業72社の2006年度業績集計値は前期比7%の増収、営業増益は15%と二けた増益を達成し、過去5期で最も良好な結果であった。

 にもかかわらず、原稿執筆時点(6月22日)で2007年の年初来の株価騰落率はTOPIX(東証株価指数)が+5.8%であるの対し、ITサービス主要企業20社で構成される「クレディ・スイス情報サービス株価指数」は-3.0%。TOPIXに対し9ポイント近くの大幅なアンダーパフォームとなっている。

 好況下で株価低迷が続くのは、前回も述べたような「価格決定力の弱さ」から成長期待が後退していることが一つの理由と当社では見ている。しかしそれだけでなく、ITサービス業界において業界再編が起こることへの期待が、株式市場で低いことも影響していると思われる。その背景として考えられるのは、(1)「売り手」が少なく他社を買収しにくいため、(2)業績好転で業界再編への意欲が後退したと株式市場が見ているため、(3)労働集約的なビジネスゆえに企業文化の融合などのハードルがあり、M&Aが容易でないため──などが考えられる。

 我々は、業界再編がITサービス業界の成長性を回復するための必要条件と考えている。業界再編を通じて企業数が減ることで供給側の価格決定力が増した場合、労働市場に対してより魅力的な労働条件の提示が可能となる。その結果、各社の雇用力が増してITサービス市場の潜在成長力の向上が期待できる。我々は ITサービス各社の業界再編への意欲は衰えていないと考えている。向こう3~5年で見れば業界再編が進む可能性は十分にあり、現在の株式市場の評価が覆ることを期待している。