7月16日午前10時過ぎ、新潟県の柏崎市など中越地方を、またもや大きな地震が襲った。最大震度は6強で、3年前の新潟県中越地震の最大震度7に迫る規模である。しかし現地企業の多くは前回の経験を生かして対策を立てており、被害を抑えることができた。

 この3年間で多くの企業が取り組んできたのが、地震などの災害が起きた直後に何をすべきかという「初動体制」の策定だ。経験に基づいた体制は、今回の地震で有効だった()。企業活動を止めないためにシステムを安全な場所に移したことはIT面の被害抑制につながった。また、ITを活用した減災の取り組みも効果があった。

表●2004年の新潟県中越沖地震で被災した企業が、今回の中越沖地震で生かした教訓
表●2004年の新潟県中越沖地震で被災した企業が、今回の中越沖地震で生かした教訓

混雑を避け、“情報源”にあたる

 コロナ IT企画室の今井辰夫副部長は中越沖地震の発生直後、まだ揺れている段階で電話に手を延ばした。同社のデータセンターを運営するNECフィールディングにシステムの稼働状況を確認したのだ。3年前の教訓から、「電話の規制が始まるのは揺れが収まってから」と分かっていたからである。

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写真1●コロナはIT部門がバイクで被災地に入り、被害状況をデジタルカメラに収めた
 揺れが収まると今井副部長は三条市の本社に出社し、情報の収集を始めた。まずは被災した柏崎工場に状況だ。柏崎市に住む社員から「工場は停電しているようだ」との情報があったが、pingでネットワーク機器の稼働が確認でき、「工場に電気がきている」と判断。その後、現状を把握するために柏崎工場に向かう(写真1)。「前回、道路の陥没などで自動車が通れない場所があった」(今井副部長)ため、交通手段にはバイクを選んだ。実際、バイクは2時間で着いたが、自動車で向かった別働隊は渋滞に巻き込まれ、6~7時間かかったという。

 一方で、データセンターで稼働する受注システムの設定を変更した。休日明けの翌日以降、柏崎工場分の受注がなされないようにしたのだ。地震の揺れによって製品が壊れているのにもかかわらず受注してしまうことを防ぐのが目的である。これは、前回の地震ではなく、04年夏の豪雨で川が決壊し、本社が水没する被害を受けた際の教訓を生かした。当時は午前中に全国の営業拠点から多くの受注が入っており、その午後に被災。そのため、それらの取り消しと作業と製品在庫の整合性を取るのに大きな手間がかかった。

 長岡市に本社を置く北越銀行は、3年前の中越地震までは5階に対策本部を設置することと決めていた。しかし3階以上の上層階は地震の揺れで検査が必要となり立ち入りができなかった。そこで今回は当初から2階に本部を設置した。電話の規制に苦労した経験から、データセンターや本店に用意していた特別な携帯電話も威力を発揮した。金融機関や公共機関などしか契約できないが、優先的に発信をする携帯電話だ。

 地震直後には柏崎の1店舗が停電したが、あわてなかった。中越地震以降、「各店舗で3カ月に1度、燃料と自家発電機の状況を点検していた」(北越銀行総務部広報文化室)からだ。実際、上記の店舗で自家発電機が稼働し、ATM(現金自動預け払い機)を動かせた。翌日以降に発電機を動かすための燃料の手配も、手はず通りに行えた。

 同行のデータセンターは、前回は“水”で苦しんでいる。その地域で水道の供給が停止し、サーバー・ルームを加湿する水が確保しづらかったのだ。現在は、「貯蔵水の使用量を抑えるための仮設トイレの手配を取り決めてある。今回は使う必要がなかったが、心理的に安心だった」(事務統括部の樺澤隆一副部長)。

システムは“幸運”では守れない

 実は04年の中越地震でも、システムが致命的な被害を受けた企業は少なかった。ただ、「サーバーを固定していなかったが、機器間のケーブルによって転倒や破損が防げた」(計器メーカー大手の日本精機)、「揺れが南北方向だったので、サーバーがラックから飛び出さなかった」(スーパーマーケットの原信)と、紙一重の状況だった。

 そこで、各社とも抜本的な対策に乗り出していた。

 日本精機は、04年の中越地震直前に竣工しておきながらサーバーの移設が間に合わなかった免震構造のデータセンターに主要サーバーを移設済み。そのおかげで今回、センターがある長岡市街は震度5強の揺れに見舞われたものの「情報システムの被害は皆無で、無停止だった」(日本精機)。そのデータセンターには、子会社のシステムも収容してある。前回、子会社の設備が被害を受けてメーターの生産ができず、取引先である2輪車メーカーの生産を止めてしまった経験からだ。

 原信は4000万円を投じて、物流センターの中にデータセンターを構築。06年11月にシステムを移した。04年に発生し、被害を被った水害も考慮し、「基礎を高くとった」(システム子会社である原興産の内藤裕取締役)。ここには06年4月に経営統合したナルスのシステムも収容する。

ITを利用した減災始まる

 IT機器そのものを守るだけでなく、生産や物流の機器などの被害抑制に、ITを利用するケースもあった。

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写真2●地震の揺れを検知し、設備を連動停止する仕組みを導入した原信の物流センター
 原信が、その1社だ。同社は3年前の中越地震で物流センター内の商品を各店舗向けに振り分ける「仕分け機」が大きな損害を被った。そこで中越地震直後の 04年末に地震計を設置し、仕分け機と連動させることにした。震度3程度以上の揺れを感知すると、仕分け機の電源を落とす(写真2)。「仕分け機は稼働したまま揺れを受けると、ローラーなどが破損してしまう」(原信ナルスホールディングスの山岸豊後常務取締役・執行役員)からだ。今回の中越沖地震も含め、導入以来5回ぐらい停止しているが、仕分け機の被害はない。投資額は約100万円だという。

 新たな対策として注目を集める「緊急地震速報」を導入し、効果を出した企業もいた。

 その1社が新潟市の北、聖籠町にある半導体製造のコバレントマテリアル新潟(旧新潟東芝セラミックス)である。本社兼工場では、半導体を製造する一部の工程に試験的に導入済み。震源から約80km離れた同町では震度4を観測しているが、今回、大きく揺れるおよそ17秒前に警報を受信したという。すぐに放送や警告灯で現場に大地震の襲来を周知できた。

 もっとも、ITを活用した減災は、使えないケースも想定する必要がある。 緊急地震速報は震源の近隣エリアでは警報の配信が間に合わない場合があるし、まれだが誤報もある。

 今回、災害に強いとされた携帯電話の電子メールやWeb接続が、全幅の信頼を置くことはできなかった。コロナの今井副部長は被災当日、柏崎市内で携帯電話が「圏外」となり利用できない状態を目の当たりにした。ソフトバンクモバイルの基地局が中継回線の切断などで利用できなくなり大幅に停止したほか、 NTTドコモやKDDIでも停電でダウンする基地局が出たためである。