IDC Japan ソフトウェアグループマネージャー 赤城 知子氏 赤城 知子氏

IDC Japan ソフトウェアグループマネージャー
国内調査会社の事業部長兼シニアITアナリストを経て現職。ERPやSCMを中心に、エンタープライズアプリケーション分野全般の調査に携わる。

 「コンシェルジュ」とは本来、フランス語で「大きな建物、重要な建物の門番」という意味だが、一般的にはホテルの宿泊客の「総合相談承り係」のような役割を担う人を指す。多様化する顧客ニーズへの対応が課題となっている昨今、さまざまな業種で同様の役割をコンシェルジュと呼び、「コンシェルジュサービ ス」が確立されてきている。

 このような「顧客に貢献する高品質なサービス」は、IT業界にも求められている。IT業界では、SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)などの用 語の傾向にもあるように「ITのサービス化」がキーワードとなっている。しかし、サービスという言葉がさまざまな意味を持つ一方で、コンシェルジュサービ スが意味する総合相談承り的なプロフェッショナルサービスの成功例は少ない。

 ヘルプデスクやコンサルティングなどのビジネスが目的としては近いかもしれないが、それらはごく一部の大企業向けであるか、プロバイダが得意な顧客ターゲットに特化する傾向が見受けられる。ユーザーは大手や中小にかかわらず、個性的で多様なサービスを望んでいる。IT業界には、顧客ごとにきめ細かく対応 できるサービスが求められているのだ。

 IT業界は長らく、「製品仕様」のハイエンド化を主眼に開発競争を行ってきた。その結果、例えばメインフレームの高機能化はユーザーニーズを凌駕し、費用対効果に見合った高機能製品を活用できる企業はどんどん減少した。その一方で、x86ブレードサーバーがデータベースやERPなどのミッションクリティカル業務で伸びている。

 このような現象を「ローエンド型破壊」という。ユーザーが求めているのは冗長なハイエンド製品ではなく、柔軟にビジネスの多様性をサポートするシステム を短期・低コストで導入することだ。つまり顧客企業に貢献するサービスとは、コストも含めた多様化への対応のことである。

 こうしたニーズに対するサービスの在り方として、ユーザーが求めるものに応じて“アスクモデル”で開発するスタイルは、この先市場競争力を失うだろう。能動的な提案に基づく“テルモデル”へとビジネスを改革し、サービスを標準化してボリューム展開を検討すべきである。

 多様性への対応とサービスの標準化は、一見矛盾した論理に思える。だが、前述のローエンド型破壊の現象を念頭においてほしい。コンサルティングサービスが、十分な費用を払うことができる大手企業向けのアスクモデル型サービスであるとすれば、そのサービスを必要とするユーザーは減少していく。それよりも敷居を下げ、気軽にカスタマイズが可能なテルモデル型のコンシェルジュサービスを、市場の裾野まで行き渡らせることが成功の秘訣だ。

 そのためにはまず、つぎはぎ状態のシステムを束ね、顧客企業のビジネスプロセス基盤を整備する提案が先。現時点でその手段はSOA(サービス指向アーキ テクチャ)しかない。J-SOXへの対応を迫られているユーザーに「内部統制はITにお任せ」と言ってツールを売り込めば売り上げへの近道かもしれないが、ここは地道にサービス提供のためのシナリオを模索してほしい。登山に例えれば、コンシェルジュサービスのベースキャンプ設営を急ぐべきである。