前回見てきたように,仮想化技術をIT基盤に取り込む動きが急速に広まっている。その背景には,ビジネス面とシステム面の両方から,変化に強いIT基盤を必要とする状況の広がりがある(図4)。

図4●ビジネスとシステムの両面から仮想化技術が求められている
図4●ビジネスとシステムの両面から仮想化技術が求められている

IT部門を“思考停止”から解放

 この4月に,仮想化技術を組み込んだシステム基盤構築サービスを開始した新日鉄ソリューションズの大城卓 技術部システム研究開発センターシステム基盤技術研究部長によれば,「業務やアプリケーションごとに異なるIT基盤を作り込んできた結果,多くの企業ではアプリケーションからIT基盤までがサイロのように孤立してしまっている」という。

 サイロ状になったアプリケーションとIT基盤は,経営の足かせにすらなりかねない。例えばM&Aにより企業が経営を統合しようとしても,情報システムがスムーズに統合できなければ十分な統合効果を出すことは難しいとされる。

 ファイザーの福崎部長は,「これまでIT基盤を構築するといえば,大型サーバーを使って,物理的に統合することくらいしか思い至らなかった。IT基盤の物理的な構成にとらわれ,“思考停止”していたようなものだ」と指摘する。「仮想化を活用することで,IT基盤がビジネスに貢献できるチャンスを一気に拡大すべきだ」(同)と強調する。

 とはいえ,IT基盤の統合は企業にとって一大事業。仮想化ソフト最大手,ヴイエムウェア日本法人の三木泰雄社長は,「よりミッション・クリティカルな用途に当社製品の適用が始まってはいるが,業務志向が強い日本のIT部門においては,基盤刷新は最重要課題に位置付けられ難い」と話す。

 例えばWOWOWも,最初から仮想化ソフトを同社のシステム基盤にしようと狙っていたわけではない。きっかけは,Windows NT Server 4.0で動作するノーツ R4.6を“延命”させることだった。

 具体的には,最新のハードウエアでは動作が保証されないNT Server 4.0を仮想化ソフト上で動かすことで,ノーツ R4.6自体はそのままに,サーバー機だけを入れ替えた。ところが仮想化ソフトを実際に使っているうちに色々なアイデアが浮かんできた。「結果として,期待以上のメリットを得られた」(皆川氏)のだ。