中野恭兵氏

 ミクシィで日本最大のソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)mixiのアプリケーション開発を担当する中野恭兵氏がプログラミングに興味を持ったきっかけは、高校時代に読んだ1冊の書籍だった。

 オートマトン(自動機械)理論のシミュレーション・プログラムであるライフゲームを解説した『ライフゲイムの宇宙』(ウィリアム・パウンドストーン著)を読んだ中野氏は、プログラミングを本格的に勉強したいと思い、翻訳者である有沢誠・慶応大学環境情報学部教授に師事するために同大学に入学した。



ある日のスケジュール

「Webの時代」を予感して
ポータルサイト会社に入社

 大学生活を送った2000年頃、日本はインターネットの普及期。ADSLなどのブロードバンド環境が整備され、家庭からインターネットに簡単にアクセスできるようになった。海外でNapsterやMySpaceといった新サービスの立ち上がりを見て、中野氏は「次はWebの時代が来る」と確信し、就職先にポータルサイト運営会社を選んだ。

 同級生のほとんどは就職先に大手IT企業を選んだが、中野氏は業務用アプリケーション開発などよりも、Webのサービスを構築するほうにやりがいがあると思い、Webプログラマを目指した。当時、ポータルサイトを扱うインターネット関連企業は、大学生にとってリスクが大きい就職先として見られていた。

 入社して中野氏が最初に感じたのは、先輩社員のプログラミング技術の水準が想像した以上に高かったことだ。学生時代にプログラミングの腕を磨き、それなりに自信を持っていたが、会社ではバージョン管理の方法をはじめ、チーム全員が共通したルールでコーディングするなど、大学生時代にやっていたプログラミングとは全く異なることが少なくなかった。「先輩が書いたコードを読んで勉強したり、他人が読みやすいコードを書くことを心掛けたりしながらプログラミングすることで、勉強になりました。大学で身に付けた技術は基礎の基礎で、今の私の知識・技術はすべて働きながら身に付けたものです」(中野氏)。

 中野氏は自らが作成したプログラムが新しいサービスという形で日の目を見ることに満足感を覚えた。社内に満ち溢れた熱気に包まれながら、プログラミング技術に磨きをかけた。


自分の実力を試したくて独立
クライアントに認められ転職を決意

中野恭兵氏
フリーランスでは、思うように技術力を伸ばせません。そんなときはエンジニア向けカンファレンスなどに積極的に参加することで問題は解決できます。

 入社してから3年がたつと、ポータルサイト運営会社の成長に歩調を合わせ、開発の現場では業務フローが確立されていった。入社当時に感じた熱気が徐々に薄れたように感じ始めた。また、それまでWebやHTTPでの通信の仕組み、Webアプリケーションに関する経験を積んだ中野氏は、自分の力でどこまでできるか試したいという思いも強くなった。

 会社を辞めて個人で開発を請け負っている先輩の話を聞いた中野氏は、組織にとらわれず仕事ができると考え、フリーのエンジニアとして独立することに決めた。独立した当初は知人から仕事を請けることが多かったが、実績を積むことで人づてに仕事が舞い込むようになり、生活も安定し始めた。

 そんな矢先のことだ。中野氏はmixiを運営していたイー・マーキュリー(ミクシィの前身)から仕事の依頼を受けた。当時、mixiの開発を担当しているエンジニアは数人しかおらず、衛藤バタラCTO(最高技術責任者)などの幹部と一緒になって開発した。中野氏が開発プロジェクトに加わって2カ月くらいたったとき、打ち合わせの席で社員にならないかと声をかけられた。

 mixiのユーザー数は現在、1000万人を超えているが、中野氏が開発に参画した2005年当時はわずか100万人にすぎなかった。それでも、中野氏は「ユーザー数の増加やサービス内容を見て、日本を代表するサイトになる」と確信した。大学を卒業してすぐに就職したポータルサイト運営会社と同じ熱気も感じた。「この将来性あるサイトの開発に参加し、サイトの成長を見届けてみたい」。そんな気持ちからミクシィへの入社を迷わず決めた。

 中野氏は現在、「おすすめレビュー」や「mixiミュージック」の開発を担当している。サイトの参加者からいろいろな声が寄せられるのがうれしい。「自分が作っているサービスがどんどん大きくなっていくというのは快感ですね。ユーザーの反応がすぐに返ってくるので、手応えも感じます。これは、業務用のシステムを開発しているエンジニアでは味わえない体験ではないでしょうか」(中野氏)。


中野恭兵氏 Kyohei Nakano
株式会社ミクシィ
1979年生まれ。2002年3月慶応義塾大学卒業、同年4月大手ポータルサイト運営会社に入社。2005年5月独立。2006年1月ミクシィに転職。現在、開発部アプリケーションエンジニア