ここからは実環境を想定したテストを見ていこう。まず,最初に802.11nでファイルをやり取りした場合のスループットを調べるために,Windowsのファイル転送とHTTPを使ったファイルのダウンロード時間を計測した。

 Windowsのファイル転送の計測ではアクセスポイントのイーサネット・ポートにファイル・サーバーとして使用するデスクトップ・パソコンを接続した。ここに143Mバイトのファイルを用意し,無線LANまたは100Mイーサネットでつないだパソコンからダウンロードした。ダウンロードの時間は3回計測し,最も短い時間の結果を採用した。

 HTTPのダウンロード計測では,編集部が設置したパソコンでWebサーバーを稼働させ,100Mビット/秒のアクセス回線でインターネットに公開。インターネット経由でファイルをダウンロードし,その時間を計った。端末は60Mビット/秒のVDSL回線につなげた。プロバイダはサーバー側の回線がインターネットイニシアティブ(IIJ),端末側がドリーム・トレイン・インターネット(DTI)である。ファイル転送と同じ143Mバイトのファイルを使用し,3回のうちの最短の時間を選択した。

イーサに比べ11nのスループットが20%減

 まず,Windowsのファイル転送の計測結果を見てみよう。100Mイーサネットが40MHz幅で動作する802.11n機器のスループットを20%程度上回った(図3)。100Mイーサネットが71.7Mビット/秒,バッファローとNECアクセステクニカの802.11n対応製品がそれぞれ57.7Mビット/秒,55.4Mビット/秒だった。11nを20MHz幅で通信させた場合は,40MHz幅の場合に比べてバッファロー,NECアクセステクニカとも10%程度低下した。

図3●Windowsファイル転送時の速度
図3●Windowsファイル転送時の速度
11nの40MHz幅の場合,100Mイーサネットより20%程度遅くなった。原因はSMBの応答にパケットが頻繁に流れるためと推定される。

 次に,HTTPの場合を見てみる。結果を速度順に並べるとイーサネットが10.1Mビット/秒,802.11nの40MHz幅が9.6Mビット/秒,20MHz幅が9.4Mビット/秒,802.11aが8.3Mビット/秒となった(図4)。この傾向は,ファイル転送の結果と同じである。802.11aやgを社内/家庭内で利用しているユーザーが802.11nを導入すれば,若干ではあるがスループットを向上できる。

図4●インターネット利用時の速度
図4●インターネット利用時の速度
インターネットにあるサーバーからHTTPでファイルをダウンロードした。11aと比較して11nの方が若干速かった。

SMBのオーバヘッドで11nの速度が低下

 ところで,なぜファイル転送で100Mイーサネットが802.11nを上回る結果になったのか。Windowsのファイル転送プロトコルであるSMB(server message block)のオーバーヘッドが主な原因と考えられる。

 SMBでは642バイトごとに応答パケットを返す仕組みになっている。このため,パケットを複数連結することで高速化する技術である「フレーム・アグリゲーション」が効果的に利用できない。これにより速度が低下すると考えられる。

 一方,HTTPのダウンロードで差が出たのは少しだけ不可解だ。HTTPはSMBのような応答を返さないためオーバーヘッドが生じないからである。