802.11nではより高速の通信を実現するため,11a/gから無線の変調部分(物理層)で5点の変更を施した。(1)MIMO(multi-input multi-output)の採用,(2)チャネル・ボンディングの採用,(3)搬送波数の増加,(4)ガード・インターバルの短縮,(5)符号化率の変更──である。

 (1)のMIMOは複数のアンテナを使い,それぞれのアンテナから異なるデータ(ストリーム)を送信し,これを複数のアンテナで受信することで高速化する技術である(図A)。1本のアンテナで送信する場合と比較して,理論上はストリームの数だけ高速化する。例えば,2本のストリームを送信した場合は2倍,3本の場合は3倍という具合だ。802.11nでは最大4本のストリームまで規定されている。 

図A●MIMOの仕組み
図A●MIMOの仕組み
複数のアンテナを使って送受信することで,整数倍の伝送速度を実現する。例えば,二つのアンテナを使ってそれぞれで異なる信号を送った場合,2倍の速度になる。
[画像のクリックで拡大表示]

 (2)のチャネル・ボンディングは利用する周波数を2倍にするというもの。11a/b/gは1チャネルの周波数幅が20MHzだが,40MHz幅で通信する。 

 (3)の搬送波数では,802.11a/gは20MHz幅で48波を使ってデータを送る。802.11nでは4本拡張し,52波を送れるようにした。チャネル・ボンディング時は,さらに倍以上の108波で送る。 

 (4)のガード・インターバル(GI)はデータ信号送信時の合間に挿入される意味のない信号を流す期間のこと。受信側で反射によって時間がずれたデータが届いて干渉をするのを防ぐために使う。802.11a/gまではGIが800ナノ秒だったが,これを半分の400ナノ秒でも運用できるようにした。

 (5)の符号化は,データの信頼性を向上させるためにデータを冗長化する技術。802.11a/gではデータを本来の1.5倍に冗長化しているが,802.11nではこれを1.2倍にすることで冗長度を低くした。

 こうした工夫により,802.11nは11a/gの54Mビット/秒と比較して,約11倍の最大600Mビット/秒の通信速度を達成した(表A)。内訳は,MIMOで4倍,チャネル・ボンディングとサブキャリアの増加で2.25倍,GIの短縮で1.11倍,符号化率の変更で1.11倍である。

表A●802.11nで規定されている通信速度
表A●802.11nで規定されている通信速度
4種類の異なる信号(ストリーム)を同時に送受信することで最大600Mビット/秒で通信可能になる。
[画像のクリックで拡大表示]