802.11nのアクセスポイントは下位互換性を持つため,802.11a/b/gの端末と通信できる。このとき気になるのが既存の無線LANシステムとの共存時のスループットだ。無線通信では同じチャネルを同時に使えない。いずれかの装置が通信している間は,その他の装置は通信開始を待つ必要がある。もし,通信中の装置が遅い速度でデータをやり取りしていると,同じデータ量を送るのに長い時間かかるため,システム全体としてのスループットは落ちる。

 そこで802.11aと802.11nを同時に使った場合,スループットはどうなるのかを調べてみた。機器を40MHz幅で動作させる場合は,36チャネルと40チャネル,20MHz幅で動作させる際は36チャネルに設定した。802.11aは常に36チャネルで動作させた。

802.11aが大きく落ち込む

 802.11nの機器を40MHz幅で動作させた場合,単独で通信すると93.8Mビット/秒だった。ところが802.11aと混在させると60.6Mビット/秒に低下した(図5)。一方の802.11aの端末は,単独時が27Mビット/秒,混在時が11.4Mビット/秒となった。

図5●11a/11n混在時の速度
図5●11a/11n混在時の速度
11nが30%程度しか低下しないのに対して,11aは11nが20MHz幅のときで,4分の1,40MHz幅のときで3分の1程度に低下している。

 次に,802.11nの端末を20MHz幅で動作させ,802.11aと混在させた。11n単独時は,79.1Mビット/秒だったのに対し,802.11aとの混在時には56.4Mビット/秒に低下した。802.11aは単独時が27Mビット/秒だったのに対して,混在時は6.8Mビット/秒と急激に落ち込んだ。

 まとめると,802.11nは40MHz幅,20MHz幅両方の場合で802.11aとの混在により30%程度スループットが落ち込んだ。802.11a側は,802.11nが40MHz幅との混在で3分の1程度に落ち込み,20MHz幅との混在で4分の1程度まで落ち込む結果となった。

 この結果は理にかなっている。データの送信速度が速いほど,空間を占有する時間が短くなり,同時に通信している別の端末が送信できる機会が増えると考えられるからである。

 802.11nを40MHz幅で動作させた場合は,最大300Mビット/秒,20MHz幅で動作させた場合は最大144Mビット/秒である。40MHz幅で動作させた方が,同じデータ量のフレームを送った場合に,2倍以上早く送信が完了する。このため,20MHz幅よりも40MHz幅の方が802.11aの端末がフレームを送信する機会は増える。だから「40MHz幅の802.11nと802.11aの組み合わせの方が,20MHz幅と802.11aの組み合わせよりもスループットが向上する」と説明できるのだ。

不可解な20MHz幅のスループット

 ただし,この結果は不可解な部分がある。机上の計算によれば,802.11nを40MHz幅で動作させ802.11aと混在させた場合,802.11nと11aのスループットはそれぞれ73.8Mビット/秒,14.8Mビット/秒となる。実測スループットである60.6Mビット/秒,11.4Mビット/秒を使って,実測値が理論値の何%を達成できているかを計算すると802.11nが82%,802.11aが77%と同じような割合で落ちていることが分かる。

 一方,20MHz幅の802.11nと802.11aを混在させた場合の理論値は802.11nが57.8Mビット/秒,802.11aが11.6Mビット/秒である。同様に実測値(11n:56.4Mビット/秒,11a:6.8Mビット/秒)と理論値の比率を計算すると,802.11nが97.6%,802.11aが58.8%となる。明らかに802.11nに有利に動作している。もしかしたら偶然だったのかと思い,再度測定したが同様の結果だった。20MHz幅の場合,40MHzの場合のときよりも,(1)フレーム送信の優先度を上げるような実装になっている,(2)フレーム・アグリケーションが効果的に働いている,という可能性が考えられる。