遠くに住む家族や友人が被災地に住んでいた場合,多くの人は真っ先に携帯電話に電話をかけて安否を確認しようとするだろう。だが災害発生直後は,携帯電話の利用が一気に増え,電話がかかりにくくなることが多い(第1回「通話よりパケットが確実? 輻輳と通話規制の仕組みを知る」を参照)。そこで最近は,携帯電話のデータ通信を使って安否確認を行いやすくする手段が誕生している。それが「災害伝言板」だ。

通話規制の影響を受けにくい災害伝言板,各社独自の工夫も

 災害伝言板とは,被災者が自身の安否情報を登録し,ほかの地域に住む家族などが電話番号を基に登録内容を検索・閲覧できるというサービスである。災害が発生すると各携帯電話事業者がサービスを立ち上げ,ポータル・サイトのトップ・ページに災害伝言板へのリンクが表示されるため,目にしたことのある人も多いだろう(図1)。

図1●災害伝言板システムの仕組みと使い方(NTTドコモの場合,他の事業者でも流れはほぼ同じ)
図1●災害伝言板システムの仕組みと使い方(NTTドコモの場合,他の事業者でも流れはほぼ同じ)
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 このサービスは,元々は2004年1月にNTTドコモが開始したものだ。その後,2005年1月にau(ツーカーを含む),2005年4月にソフトバンクモバイル(当時はボーダフォン),2006年5月にウィルコムがサービス開始し,現在は主要な携帯電話・PHS事業者で利用できるようになっている。

 災害伝言板自体は,各社が独自で運営しているものである。しかしながら公共性の高いサービスということもあり,各社が運用面でさまざまな協力を行っている。例えば,検索した電話番号で安否情報の登録がなかった場合は,他事業者の災害伝言板へのリンクが表示され,そちらでの検索を促すようになっている。また災害伝言板サービスの開始・停止に関しても,各社でタイミングを合わせて行っている。

 当初は登録と閲覧のみであった災害伝言板も,現在では,伝言板に登録を行うとあらかじめメール・アドレスを登録した相手(最大5件)にメールが送信されるという機能も用意されている(図2)。このほか,独自の機能を用意している事業者もある。NTTドコモは,災害伝言板のトップ・ページに,「ファミリー割引」のメンバーの安否を簡単に確認したり,未登録の相手に災害伝言板への登録を依頼する「登録お願いメール」を送信したりする機能を用意している。またauは,災害伝言板のトップページに「災害関連情報」へのリンクを掲載しており,最新の災害情報を簡単に確認できるようにしている。

図2●伝言板の登録と同時にメールを送信する相手の指定方法(NTTドコモの場合)
図2●伝言板の登録と同時にメールを送信する相手の指定方法(NTTドコモの場合)
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 この災害伝言板サービスが誕生し,利用が推奨されるようになった背景の一つに輻輳(ふくそう)の回避がある。前述したように,災害が発生した直後は,被災地からの発信や被災地外からの通話が殺到するため,輻輳を回避するために携帯電話事業者は通話に制限をかけることが多い。そのため電話がつながりにくく,すぐに安否を確認できないことも少なくない。

 その一方で,パケット通信は回線占有率が低いことから規制がかかることが少なく,通話と比べて連絡が取りやすい。また被災地外からは,各事業者のWebサーバーへのアクセスだけで済むため,被災地の回線を通る必要のあるメールと比べても混雑の影響を受けにくい。これをうまく活用したのが災害伝言板であり,輻輳の発生を抑えるためにも利用が推奨されているというわけだ。