災害直後に携帯電話が不通になる要因としてはいくつか挙げられるが,大きな影響を与えているものの一つに「停電」がある。災害発生時に,送電線の切断や発電所,変電所などの停止によって送電が止まってしまうと,基地局への電源供給が絶たれ,停波状態となって携帯電話が使えなくなってしまうのである。

災害時に備え,基地局にバッテリーや自家発電機を用意

写真1●KDDIの通信局舎にある自動発電機
写真1●KDDIの通信局舎にある自家発電機(KDDI提供)
 こうした停電に備えて,携帯電話事業者各社はいくつかの対策を講じている。最も基本的な対策といえるのがバッテリーだ。

 各携帯電話基地局には,緊急時に備えてバッテリーが用意されており,これを用いることで2,3時間~1日もの間,基地局を稼働させておくことができる。このため,停電したらすぐに基地局が止まるわけではなく,バッテリーの持続時間内に電源供給が再開してしまえば,ユーザーからは「何もなかった」ように見える。

 さらに,基幹となる基地局や交換機を収める交換局には,より長時間の電源供給を行うための「自家発電機」が備え付けられている(写真1)。これを用いれば,燃料の続く限り電力を供給できることから,停電が発生してもバッテリーより長時間運用が可能となる。また,自家発電機は都市部や拠点地域などの基地局以外にも置かれることがある。例えばauの場合,台風の多い地域や山間部の基地局に,自家発電機を約350個所設置しているという。

停電が長期化する場合は,さまざまなタイプの発電機を投入

 しかし,バッテリーの使用は緊急用の措置であり,これによって停電の影響をすべて回避できるかというと,さすがに難しい。災害が大規模に及ぶなどで電力会社が復旧に手間取った場合は,電源供給が再開する前にバッテリーの電力を使い果たしてしまい,基地局が停波してしまうことも十分考えられるからだ。実際,停波状態に陥る基地局は,災害発生直後よりも,ある程度時間がたってからの方が増えるというケースが多い。

 すべての基地局に自家発電機を用意できれば,停電の影響は受けにくくなる。しかし設置場所の問題やコスト上の問題もあり,実際は困難だ。そのため多くの基地局は,バッテリーによる最小限の停電対策にとどまっているのである。そこで,長期の停電による基地局バッテリー切れに備えるために各事業者は,数多くの可搬型の電源装置を用意している。緊急時には被災地の基地局にこれらを持ち込むことで,バッテリーに代わる電力供給源を確保するというわけだ。

写真2●NTTドコモの移動電源車。これはかなり大型のもの   写真3●KDDIの移動電源車
写真2●NTTドコモの移動電源車。これはかなり大型のもの
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  写真3●KDDIの移動電源車(KDDI提供)

 各事業者が用意している電源装置は,主に「移動電源車」と「発動発電機」の2種類である。前者はトラックに発電機などを搭載し,そのまま移動できるというもの(写真2写真3写真4)。後者は使用する場所や規模によってさまざまなサイズのものが用意されており,クレーン車で持ち上げないと設置できない大型のものもあれば,車で入ることができない場所で使用するため,2人程度で持ち運べる小型のものもある(写真5)。

 移動電源車や発動発電機は全国のサービス・センターなどに分散配備されており,災害発生時はこれらを被災地に集結させて電源の復旧にあたる。各携帯電話事業者が所有している移動電源車の台数を確認したところ,NTTドコモが56台,auが約50台,ソフトバンクモバイルが62台。同じく発動発電機は,NTTドコモが260台,auが約70台,ソフトバンクが141台とのことであった。

写真4●NTTドコモの移動電源車(大型)の内部。大型の発電機や始動用のバッテリーが搭載されている   写真5●発動発電機の一例。写真のものは小型タイプのもの
写真4●NTTドコモの移動電源車(大型)の内部。大型の発電機や始動用のバッテリーが搭載されている
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  写真5●NTTドコモが用意している発動発電機。写真は小型タイプのもの
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