大規模な地震や台風などの災害が発生した際,携帯電話を使う上で最も大きな問題は何か。基地局やアンテナが壊れて使えなくなったりするという可能性もあるが,それよりも頻繁に発生する大きな問題がある。それは,通話規制により携帯電話がかかりにくくなることだ。

通話規制で輻輳によりネットワーク全体がダウンすることを防ぐ

 大規模な災害が起こると,被災地の人々が互いに安否確認を行ったり,他の地域の人が被災地の人に対して安否確認を行うことが多い。このため,多くの人が一斉に携帯電話を使おうとする。通話の量が一時的に増えると,基地局をはじめとしたネットワーク設備の処理能力を超え,パフォーマンスが大幅に低下してしまう。このような状況に陥ることを輻輳(ふくそう)という。コンサートの予約や,新年のあいさつなどで通話やメールが殺到した際も,輻輳状態になることがある。

 だが,輻輳が他の地域のネットワークにも連鎖的に広がると,大規模な通信障害に発展してしまう恐れがある。こうなると,緊急通話までもがつながりにくくなってしまい,復旧活動にも大きな影響を及ぼすほか,ネットワーク全体の復旧に大幅な時間を費やすこととなってしまう。そこで携帯電話事業者は,通話規制を実施し,輻輳が他の地域に広がることを防ぐのである。

 一般に電話ネットワークの輻輳は,交換機で発生する。通話が集中して交換機の処理能力を超えてしまうのだ。ところが携帯電話ネットワークにおける輻輳は,交換機だけではなく,携帯電話との無線通信を受け持つ「携帯電話基地局」でも発生する可能性がある(図1)。災害が発生した地域において,多くの人が一斉に携帯電話を使って通話を行うと,基地局が持っている無線チャネル数を上回ってしまうからだ。こうして発生するのが,基地局に対する輻輳である。災害時の場合,停電などでいくつかの基地局が停止している場合は,基地局の数自体が減ってしまうため,このパターンでの輻輳はより起こりやすくなると言える。

図1●携帯電話では交換機と基地局の両方で輻輳が発生する可能性がある
図1●携帯電話では交換機と基地局の両方で輻輳が発生する可能性がある

新潟県中越沖地震では,最大87.5%の通話制限

写真1●各社とも,全国の通信状況を24時間体制で監視しており,即座に通信量の制御を行う体制を整えている。写真はNTTドコモのネットワークテクニカルオペレーションセンター(NTTドコモ提供)
写真1●各社とも全国の通信状況を24時間体制で監視しており,即座に通信量の制御を行う体制を整えている。写真はNTTドコモのネットワークテクニカルオペレーションセンター(NTTドコモ提供)
[画像のクリックで拡大表示]
 輻輳による通信障害を防ぐため,携帯電話各社は,災害時に通話が集中して負荷が許容量を超えた場合,通話規制を行う。通話規制は,先に挙げた基地局と交換機の2個所について行われる。一般に,被災地からの発信量が多い場合は基地局に対する発信制限が行われ,被災地に対する通話が殺到している場合は,交換機に対して通信を制限する。もちろん,両方に対して制限がかけられる場合もある。

 ただし,こうした通話規制がかけられても,自治体や消防署などの公共機関などに提供されている「優先電話」は,優先して通話ができるようになっている。また一般の携帯電話でも,110番や119番などの緊急通話は規制の対象外となる。

 では実際,どれくらいの通話規制が行われるのか。携帯電話事業者によると,災害における被害状況や,事業者における回線の混雑状況などによって大きく変わってくるという。

 例えば2007年7月16日に発生した新潟県中越沖地震の場合,NTTドコモは地震発生直後の10時16分に,被災地に対してFOMAで最大80%,movaで最大87.5%の規制をかけた。auも,大規模災害発生直後には,発信・着信に対してそれぞれおよそ60%,50%の規制をかけるケースが多く,新潟県中越沖地震でも同等の規制を行っていた。一方,ソフトバンクモバイルは,手動による通話規制やコントロールを行う必要はなく,通常運用のままであったという。なおソフトバンクモバイルの場合は,この新潟県中越沖地震だけでなく,災害を原因とした通話規制は過去に実施した例はないとしている。

 通話規制は,時間が経過し,通話量の減少とともに緩和されていく。新潟県中越沖地震の場合,NTTドコモは同日の22時43分に発信規制を解除している。日をまたいでまで規制を行うケースは少ないようだ。

 災害の発生や,それに伴う通話の集中はいつ発生するか分からない。そのため,各社とも24時間体制でネットワークを監視しており,災害発生後すぐに適切なコントロールを行うことができる体制を整えている(写真1)。