富士通でこの夏、相次いで現役の経営執行役が、しかもグローバルビジネスができる人材が2人退社した。一人は米EMCの副社長兼EMCジャパン社長に転じた諸星俊男氏。もう一人は韓国サムソンの経営企画室から富士通コリアに入り、4年前に富士通初の外国籍を持つ経営執行役に就いた安京洙氏だ。諸星氏は 10年ぶりに米国から帰国してグローバル戦略本部担当、安氏は経営執行役常務としてAPAC総代表を務めた。

 2人の退社から、「富士通で出世するのは、やはりドメスティックで泥臭く仕事をこなすSEやサポート経験者か」とか、「グローバル展開が課題である秋草(直之会長)・黒川(博昭社長)体制の求心力に陰りが出始めた」と取りざたする向きも出た。ある富士通OBは、「秋草・黒川氏の2代にわたる、安部政権にも似た“お友達登用”に、実力派の幹部社員らに内在していた不満が顕在化した証かもしれない。“見限り”は今後も続く」と見る。しかし秋草会長は人事に関してあくまでも強気の姿勢を崩さない。「長い目で見たら富士通にプラス。日本IBMに代わって今度は、富士通が人材を世に送りネットワークを築く」と、幹部の退社を少なくとも表向きは歓迎しているようなのだ。

 確かにこれまで、IT業界における人材拠出の宝庫は日本IBMであった。しかし日本IBMの優秀な人材が、米IBMのGIE(グローバルに統合された企業)戦略の中に埋没し始めたと言われる中で、富士通がそれに取って代わることができるなら、秋草会長が指摘する通り富士通のパートナー戦略上プラスだ。米 IBMで10年の経験を持つ日本IBMの技術OBは、「富士通にグローバル感覚を持つ人材が育っているかもしれない。日本に進出したIT外資系には、あくまでも一部だが、グローバル感のある富士通幹部はターゲットになる」と、秋草会長の期待を肯定する。

 さらに同技術OBは、日本IBMの今の環境を次のように話す。「日本IBM社員の不幸は、現実の仕事で欧米のIBMと丁々発止のやり合いを通じながら仕事をする機会がほとんどなかったことだ。そのため欧米流の仕事の仕方が身に付かず、ますます英語圏の人たちの後塵を拝することになっている」。だから米 IBMは日本IBMを早急にグローバル企業に変えるため同社を直轄統治することとし、幹部を大量に送り込み始めたのだ。椎名武雄氏(3代前の日本IBM社長)の強い意志による“日本化”を見直す嵐は吹き止まない。

 ある日本IBMの営業OBはこうかみ砕く。「日本IBMはローカルで人を育ててきた。日本の顧客を第一に考えてきたからだ。逆にグローバルな人材は育ちにくかった。それでもモノ作りのベースで重要な役割を担っていたから、日本IBMの“日本化”は許されてきた。だがガースナー氏が日本IBMからモノ作りを奪った時点で、日本IBMの社長はグローバル人材の育成に政策を転換すべきだった」。椎名氏の後継者2人がそれをしなかったため、日本IBMのグローバル化を米IBMの手に委ねざるを得なかったのだ。

 米IT企業の急速なグローバル化への舵切りは、日本法人の幹部たちを共通に悩ませている。このIT外資のトレンドに逆行する「日本化路線」をEMCジャパンの諸星新社長が強く打ち出した。同社の体質を簡単に言えば、(1)チームプレーができていない(2)社員が定着しないため、技術も顧客の信頼も獲得できていない(3)自主性のない目標管理であるため売り上げ至上主義である、など。今までは報酬しかインセンティブがなかった。

 諸星氏が会見で強調した、「カルチャーを変える、日本企業になる、長期間安心して働ける企業にする、顧客から見えるようする」とは日々挑戦と改革を意味するが、内在する体質的な抵抗力との衝突は容易に予想される。富士通の元同僚は、「諸星氏は日本市場を知らない。知る営業幹部を富士通から引き、実績を上げながら改革を進めたらいいが、彼の性格はそうしないで孤軍奮闘となろう」と見る。日本化とは諸星氏の度量を示すことでもある。