秋山 進
ジュリアーニ・コンプライアンス・ジャパン
マネージングディレクター

 前回に引き続き、今回も意外なところから不正を発見したケースについてご紹介していきます。

ケース3 社員の欠勤が異常に多い部署

 社員の体調も不正を発見する上で重要なチェックポイントです。ときに仕事が非常に忙しく、残業も多くて社員が体調を壊してしまいがちな部署があります。決して望ましいことではありませんが、これだけでは問題と言えません。

 ただし、それほど忙しいわけではないのに、なぜかたくさんの人が休んでしまっている部署があることがあります。このような部署ではかなりの確率で、精神的につらいことをさせられているため、ストレスで体調が悪くなって休みが増えるという構図が見られます。

 別に当事者でなくても、人間は自分のいる場所で何らかの不正が行われていると、大変つらく感じるものです。
 
「自分には何の責任もないけれど、やっぱり内部告発したほうがよいのだろうか…」
 そんなことを思い悩んでいるだけで、人の体調は悪化していきます。従って、不自然に社員の欠勤が多い部署は要注意です。

ケース4 連続目標達成記録を保持している優秀な営業マン

 以前、私が社長補佐のような仕事をしていた企業で、連続目標達成記録を更新し続け「営業の神様」と持ち上げられていた営業マンがいました。

「会社としては、ぜひこういう優秀な営業マンをたくさんつくりたい。そこで彼を異例のスピードで昇進させたいが、ちょっと心配だから調べてくれないか」

 そんな社長からの命を受けて彼の実績を洗い直したところ、残念ながら連続目標達成記録はウソ。「営業の神様」は売上の操作を行っていることが発覚しました。

 なぜ不正がわかったかというと、長期間連続して目標を達成できる営業マンには、必須とされる能力が2つあります。一つは、営業マンとしてきちんとお客様のニーズを把握して、適切な商品なサービスを提供できること。これは誰もが思いつく当たり前の能力です。そしてもう一つの能力は、「お客様のポートフォリオ」を上手に構築する能力です。

 お客様のポートフォリオについて、少し説明しておきましょう。たとえ優秀な営業マンであっても、担当している業界や企業群の景気動向までコントロールできるわけではありません。個人としていくら頑張っても、全体の景況が悪いと、業績も悪くなるのです。

 そのことを自覚している営業マンは、特定の業界で稼いでいる間に、別の畑にもきちんと種をまいておいて、今のところがダメになったらそちらにシフトできるように常に準備をしています。この準備を上手にできないと、長期にわたる連続目標達成記録など実現することはできません。

 見方を変えると、特定の業界についての売上は、どの営業マンも同じような動きをします。数字の上下幅の大小はありますが、基本的にある業界における特定商品の売上は、どの営業マンでも同じような動きをするわけです。

 ところが、「営業の神様」の数字を調べてみたところ、たくさんいる営業マンの中で一人だけまったく異なる動き方をしていました。お客様のポートフォリオを上手にコントロールしている様子もうかがえません。そうすると、何らかの操作をしている可能性が高いと判断せざるを得ないのです。このケースではこんな糸口から売上の操作を発見しました。

ケース5 お客様にひいきにされている営業マン

 営業マンの不正についてもう少し例をあげておきましょう。特定の営業マンがお客様に大変気に入られて「この人を担当からはずしたら競合に乗り換えますよ」とお客様から直接申し出られることは実際によくあります。もちろんお客様に好ましく思われるのは素晴らしいことですが、そのうちの何割かは、お客様と結託してよからぬことをやっている可能性があると考えるべきです。

 キャンセルの絶対量が多い営業マンも注意する必要があるでしょう。たとえ、期内に上手にやりくりをして数字を作っていたとしても、キャンセルの絶対量が多いのは、特定のはっきりとした理由がある場合を除いて、何かをやっているからそうなるのです。
 また、その部署から別の部署への人事異動をなんだかんだと理由をつけて認めない部署にも問題の芽が隠されていることが多々あります。

 このように、通常の監査以外にも問題を発見するバリエーションは、思いのほかいろいろとあるものです。

注)当コラムの内容は、執筆者個人の見解であり、所属する団体等の意見を代表するものではありません。

秋山 進 (あきやま すすむ)
ジュリアーニ・コンプライアンス・ジャパン
マネージングディレクター
リクルートにおいて、事業・商品開発、戦略策定などに従事したのち、エンターテイメント、人材関連のトップ企業においてCEO(最高経営責任者)補佐を、日米合弁企業の経営企画担当執行役員として経営戦略の立案と実施を行う。その後、独立コンサルタントとして、企業理念・企業行動指針・個人行動規範などの作成やコンプライアンス教育に従事。産業再生機構の元で再建中であったカネボウ化粧品のCCO(チーフ・コンプライアンス・オフィサー)代行として、コンプライアンス&リスク管理の体制構築・運用を手がける。2006年11月より現職。著書に「社長!それは「法律」問題です」「これって違法ですか?」(ともに中島茂弁護士との共著:日本経済新聞社)など多数。京都大学経済学部卒業