秋山 進
ジュリアーニ・コンプライアンス・ジャパン
マネージングディレクター

 前2回では一般の監査以外で不正を発見した事例をご紹介してきました。今回は不正の兆候の見つけ方について考えたいと思います。不正が行われているとき、多くの場合で社内や取引先などから「あの人は危ないのでは…」という声が事前に上がっています。やはり「火のあるところに煙は立つ」もので、その煙をいかに察知するかが大切です。以下に煙を見つける方法を挙げていきます。

・バカにできない2ちゃんねる、ブログ
 きちんと仕事をしている人であればあるほど、「2ちゃんねる」のようなネット掲示板は「ウソばかり書かれているから読まない」という方が多いと思います。確かにいい加減なことが書かれているのですが、書き込みを一つ一つみていくと時折「こんなことは社内の人間しかしらないはず…」という内容が書かれていることがありますので、定期的にチェックされることをお勧めします。
 またブログなどで「A社では今、こんなことが起こっている」と暴露されている内容もまた、それなりの確率で真実であることが多いと思われます。

・取引先やOBからの情報提供
 ネット掲示板やブログよりも、取引先やOBからの情報提供は信頼度が格段に上がります。「こんなことが起こっているといううわさを聞いたけど、おたく本当に大丈夫?」と聞かれたら要注意です。とくにOBの方は、自分がかつて在籍した会社に愛を持っている方が多いですから、こうしたお話をいただく機会もたくさんあるでしょう。面倒くさいと思わずに調査することも必要です。

・eラーニングや研修での質問内容
 現在は多くの会社でコンプライアンスに関するeラーニングや研修が導入されるようになりましたが、ここから情報を得られることもあります。例えば、「こういうケースで、あなたはどのように行動しますか?」という3択問題を出したときに、社員の方からその内容とは別に「うちの部署では今、こういうことが行われているんですが、大丈夫ですか?」という質問を受けることがあるのです。ヘルプラインなどの通報窓口は社員の方にとって心理的なハードルが高く、連絡しにくい面があります。しかしeラーニングや研修のようにインタラクティブにコンプライアンス担当者と交流する場面があると、自分の中で気になっていることを気軽に言ってもらえるのです。

・カウンセリング、EAP(Employee Assistance Program 従業員支援プログラム)
 従業員のメンタルに関するサポートを行うカウンセリングやEAPなどに、不正情報がもたらされることもあります。ただし、こうした情報は個人に関するきわめてデリケートな内容なので、それを入手するためには本人に「コンプライアンスの担当者に伝えていいですか?」と尋ねて許諾をもらわなければいけません。また、これらの個別の話を総合し「全体としてこういう傾向がある」という風にカウンセラーなどから情報が得られれば、それもまた重要な情報ソースとなります。

・退職面談
 社員が会社を辞めるのは、やりたい仕事が見つかった等のポジティブな場合もありますが、そうではない理由で辞めるケースも少なくありません。退職者が辞める理由の中に自社が抱えている問題が含まれていて、大変重要な情報をもたらしてくれることもあります。その意味で、人事部とは日頃から仲良くしておくことが大切です。

 ここにあげた以外にも、お客様相談室に寄せられたクレームや、マスコミからの質問などからもいろいろな情報を得られることができるでしょう。ただ、ときに「火のないところに煙が立つ」こともあります。前述したように、ネット掲示板の書き込みはウソだらけですし、通報窓口の担当者の方たちは「入ってくる情報の7~8割は『うちの課には態度が横柄な人がいて、雰囲気が悪くなって困っている』といった、それほど深刻ではないものが多い」と言います。

 また、火のないところに煙を立たせる人もいます。私の経験した例を紹介すると、副業禁止の会社で、ある優秀な社員が個人でコンサル会社をつくって営業しているという通報がありました。しかもコンサル会社名の入った、その人の名刺のコピーまで添えて。ところが、調べてみたところまったく問題がないことが判明しました。おそらく通報者はこの社員をエリートの座から引きずりおろしたかったのでしょう。世の中にはそこまでして他人の足を引っ張ろうとする人がいるようです。

 このように、火のないところに煙が立つこともあります。しかし、火のあるところにはほぼ確実に煙が立っています。従って、それらの煙を注意深く眺めながら、煙の元である不正が行われているかどうか、一つひとつこまめにチェックしていかなくてはなりません。

 次回からは、問題があることがわかった際に、どのように調査していけばよいかについて述べていくことにします。

注)当コラムの内容は、執筆者個人の見解であり、所属する団体等の意見を代表するものではありません。

秋山 進 (あきやま すすむ)
ジュリアーニ・コンプライアンス・ジャパン
マネージングディレクター
リクルートにおいて、事業・商品開発、戦略策定などに従事したのち、エンターテイメント、人材関連のトップ企業においてCEO(最高経営責任者)補佐を、日米合弁企業の経営企画担当執行役員として経営戦略の立案と実施を行う。その後、独立コンサルタントとして、企業理念・企業行動指針・個人行動規範などの作成やコンプライアンス教育に従事。産業再生機構の元で再建中であったカネボウ化粧品のCCO(チーフ・コンプライアンス・オフィサー)代行として、コンプライアンス&リスク管理の体制構築・運用を手がける。2006年11月より現職。著書に「社長!それは「法律」問題です」「これって違法ですか?」(ともに中島茂弁護士との共著:日本経済新聞社)など多数。京都大学経済学部卒業