写真●書籍の裏表紙に印刷されたクリエイティブ・コモンズの利用条件を示すマーク
写真●書籍の裏表紙に印刷されたクリエイティブ・コモンズの利用条件を示すマーク
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 先日,ライターの津田大介氏から1冊の本をお送りいただいた。「CONTENT'S FUTURE」というタイトルで,副題に「YouTube時代のクリエイティビティ」とある。ライターである津田氏と小寺信良氏がコンテンツビジネスの最前線に立つ9人にインタビューした結果をまとめた本である。

 登場するのは『電波少年』のT部長として有名な第2日本テレビの土屋敏男氏,吉田美奈子や山下達郎のバックミュージシャンとして活躍し,現在は実演家著作隣接権センター運営委員を務める椎名和夫氏,IPネットワーク経由でテレビ番組を視聴できる「ロケーションフリー」を開発したソニービデオ事業本部本部長の西谷清氏など。YouTubeのような動画共有サイト,P2Pによるファイル共有,消費者が情報を発信するCGM(Consumer Generated Media)が当たり前になっていく中で,創作者のクリエイティビティをいかに高めていくか,コンテンツビジネスをどうやって成り立たせるかが論じられている。

 インタビューでは,ビジネスモデルや著作権問題といった“本筋”の話題以外に,それぞれの登場人物の仕事に関係した“わき道”の話題も取り上げられている。個人的に面白かったのは,椎名和夫氏が語るスタジオワークの変遷である。コンピュータによる音楽制作技術の進歩で,「スタジオミュージシャンと呼ばれる人でスタジオ録音だけで食えてる人がほとんどいない」ようになり,「みんな誰かビッグネームのアーティストのライブのサポートを数本抱えることで昔の収入をキープしている」というのだ。

 意外だったのは,ドラム,ベース,ギター,キーボードがそうした状況なのに対し,いち早くサンプリングされていた(と思える)ブラスやストリングスはプロレベルでは代替がきかず,仕事もなくなっていないということだ。Sound&Recordingなどの専門誌を購読している人には常識なのかもしれないが,スタジオの現場で活動してきた椎名氏の口から実態を聞くと,あらためて興味深いものがある(注1)

 この本は,津田氏の強い要望で「クリエイティブ・コモンズ」として出版されている。クリエイティブ・コモンズとは,一定の条件のもと「著作物を無料で利用してよい」という意思を表示するライセンス形式およびそのプロジェクト名である。本の裏表紙にはクリエイティブ・コモンズのマークとともに,「原著作者のクレジットを表示する」「営利目的で利用しない」「改変または加工しない」という利用条件を示すマークが印刷されている(写真)。

 あとがきによると,津田氏がクリエイティブ・コモンズというライセンス形式を選んだのは,「本書を『教科書』的な存在にしたかった」ためという。インターネットの普及・発展によってコンテンツビジネスの現場でどのようなことが起きているか,当事者たちがどのようなことを考えているか。その最新動向を知るうえで,本書は確かに格好の教科書と言えるだろう。この分野に興味のある方は,クリエイティブ・コモンズの使い勝手を試す意味も含めて,入手されてみてはいかがだろうか。

(注1)椎名氏のインタビューでは“本筋”の話として,権利者団体の変遷や著作権収入を権利者団体から権利者に分配する仕組みなどが取り上げられています