ジュリアーニ・コンプライアンス・ジャパン
マネージングディレクター
不正対策の第一として、「いかにして不正を発見するか?」について述べたいと思います。不正はいわゆる監査業務でわかることもありますが、それ以外のところで発見されることもあります。これから2回にわたり、そうした事例について私自身の経験をお話していきましょう。
ケース1 別案件のインタビューから発覚
もうだいぶん前の話です。私が内部統制ではなく事業戦略・業務改革の仕事に携わっていたときのことです。ある企業(以降、仮に本社と呼びます)の依頼を受けて、その関係会社の業務改善に取り組むことになりました。仕事の内容は、顧客の要望に迅速にこたえられる、営業や製造、物流の一貫した業務フローを策定することでした。
そんなあるとき、私は業務改善のためにはIT投資が必用になると考え、経理部の課長さんに「どの程度投資余力があるか教えて欲しい」とお願いしました。すると、いそいそとやってきた課長は、部屋に入った瞬間からなにか様子がおかしく、説明の仕方も少し変でした。B/SとP/Lの概略を説明してもらい、どの程度お金を使えるかがわかればよかっただけなのに、彼はB/Sの勘定科目の一番上から一つ一つていねいに説明し始めたのです。
私としては「そこまで詳しく説明してくれなくても…」という気持ちだったのですが、その姿には、ストップさせない不思議な勢いがあったので、そのまま「はい、はい」と聞いていました。そして流動資産の項目が終わり、固定資産の説明へ入ったときに、彼は「関係会社へ○千万円の貸し付けを行っているほか、○百万円単位の投資を行っていると言いました。ところが、よく考えてみると、この会社にそんなお金を出資するような関係会社など思いつきません。
「このお金は何という会社に貸しているんですか?」
「○○株式会社です」
「そこは、何をしている会社なんですか?」
「それが、よくわからないのです…」
「は?」
実は、この関係会社とは社長のダミー会社で、なぜかそこにいろいろな形でお金が流れる仕組みができていました。本社のほうも、過半数の株をもっていたわけでもなく、完全にコントロールできる立場にはなかったのです。
経理課長はこの事実をずっと誰かに伝えたいと考えていたようなのですが、本社の人間と彼が一人で会うことは社長によりずっと防御されていました。そんな状況の中、コンサルタントの立場で入った私がたまたま「ちょっと話を聞かせて」とお願いしたことは、千載一遇のチャンスだと思ったのでしょう。ただし彼は立場上、自分が不正を告発したと思われたくはなかったので、B/Sを逐一説明することによって、コンサルタントが自らの力で不正を発見した形にしようとしたのです。
詳しく調べてみると、この会社ではさまざまな購買物を高めに購入してさやを抜く方法なども行われており、全部で数億円のお金が消えていることがわかりました。もちろんこの不正発覚により、社長は会社を去り経営体制も一新されました。こんな形で不正の存在がわかることもあるわけです。
ケース2 下がらない購買価格
これも業務改善の仕事で関わっていた企業での出来事です。企業での購買は、原材料など相場によって価格が上下するものもありますが、製品レベルのものを納入してもらう場合は普通、経験を積み習熟することでだんだん価格が下がっていくものです。ところが、この会社では5年間も価格が全然下がっていない購買物がいくつかありました。
そこで、内部監査の人に手伝ってもらって調べてみたところ、稟議書は完璧につくられていました。常に3社から相見積もりをとって一番低い価格に決定していたので「監査的には問題なし」。しかし、もう少し詳しく調べてみると、3社から相見積もりをとってはいたのですが、その顔ぶれは5年間いつも同じであることが露見しました。
結論からいうと、このケースでは購買担当者が相見積もりを出していた3社と小さな談合をして、キックバックをもらっていたのです。このような形で、通常の内部統制の手続きではなかなかわからないような手を打って不正を行っているケースも見られます。
来週も不正の具体的な事例についてご紹介していきます。
注)当コラムの内容は、執筆者個人の見解であり、所属する団体等の意見を代表するものではありません。
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