サービス化したことで、ERPパッケージの導入方法は大きく変化する。システム部門には、最適な組み合わせを選ぶための業務と製品の知識や、短期間・繰り返し型のプロジェクトを管理する能力が求められる。これまでの常識にとらわれたままでは、迅速で柔軟な開発というメリットを生かし切ることができない。

 サービス化したことで、まず変わるのがERPパッケージの選び方だ。単一の製品やモジュールを選ぶのではなく、自社の業務にふさわしいサービスの組み合わせを探すことになる。複数のERPのサービスを組み合わせることも珍しくはなくなるだろう(技術面は57ページの別掲記事を参照)。

 業務システムを構築する場合に、システム部門が要件を固めてRFP(提案依頼書)を、ITベンダーに手渡す手順に変化はない。この後、ERPパッケージなどが提供するサービスのなかから、要件に近い組み合わせをITベンダーが選んで提案する、という作業に変わることになる(図1)。

図1●サービス化したERPパッケージが普及すると製品選択の方法が変わる
図1●サービス化したERPパッケージが普及すると製品選択の方法が変わる

サービス化の容易さを考慮

 やみくもに多くのサービスを組み合わせるのは得策ではない。長年をかけて培ってきた、業務プロセスや統合型のデータベースといったアーキテクチャが、ERPパッケージにはある。

 導入の中心となるERPパッケージを決めたうえで、「その製品の基本機能では実現できない部分を、他製品のサービスでカバーする」(アビームコンサルティングの中野洋輔IES事業部FAMグループプリンシパル)のが現実的だ。

 IBMビジネスコンサルティング バリュー・デリバリー・センターの大竹伸明パートナーは、明確にパッケージを中心とした導入を勧める。「自社開発した社内システムをサービス化することもできるが、ハードルは高い。たとえ複数企業の製品になるとしても、パッケージ・ソフトで用意しているサービスを選ぶほうが、開発期間を短縮できる」と指摘する。

 メインフレーム上のアプリケーションなど自社開発の社内システムをサービス化させ、組み合わせる場合には、サービスの定義や動作検証などにかかる手間を考慮する必要がある。

 サービス化が威力を発揮しそうな業務の代表は、日本独自の処理が要求される業務になる。債券・債務管理や固定資産の管理などは、日本の法制度に影響される。こういった処理は、SAPやオラクルなどの外資系ERPパッケージがそれほど得意としないところだ。最近では機能が豊富になっているとはいえ、国産製品に一日の長がある。

 一連の会計処理のプロセスは、これまで通り外資系製品を利用し、債券・債務の処理だけは国産製品が提供するサービスを利用すればよい。現実に富士通は、自社のERPであるGLOVIAをサービス化することで、こういった企業の要望に応えようとしている(図2)。

図2●複数のERPパッケージが提携するサービスを連携させたシステムの例
図2●複数のERPパッケージが提携するサービスを連携させたシステムの例

短期型の繰り返し大規模に対応

 サービス単位でERPパッケージを導入するようになると、1回のプロジェクトでシステム化の対象とする範囲を、これまでに比べて小さくできる。対象とする処理を「販売業務の請求処理」といったサービス単位に絞り込めるうえ、サービスを交換するだけでプロジェクトが終了する可能性もある。

 これにより開発期間は短期化する。少なくとも、モジュール単位で導入する必要があった、これまでのERPパッケージ導入の常識は崩れる。数十億円と数年をかけ、全業務に一斉にシステムを導入するビッグバン型のプロジェクトは次第になくなっていくだろう(図3)。

図3●サービス化したERPパッケージは「狭い範囲で、短期間」の導入になる
図3●サービス化したERPパッケージは「狭い範囲で、短期間」の導入になる

 ほかにもプロジェクトが短期化する要因がある。アビームの中野プリンシパルは「プロジェクトを長期化させる大きな原因だった、アドオン・ソフトの開発は確実に減らせる」と話す。

 システム間のインタフェース用のアドオン・ソフトは、Webサービスを介して連携させることで開発の必要がなくなる。自社に特有な業務を処理するために開発していたアドオン・ソフトについても、「サービスを使うことで代替できる可能性がある」とべリングポイントの椎名茂マネージングディレクターは指摘する。

 導入規模をせばめ、アドオン・ソフトの開発が減らせるからといって、ERPパッケージを導入するうえで考えるべきポイントが減るわけではない。

 アビームコンサルティングの畠山友紀 テクノロジーインテグレーション事業部プリンシパルは、「システムを導入すれば当然、運用や保守が発生する。ハードウエアの更新や、日々の運用計画など考えるべきことはいくらでもある。中長期的な視野に立って導入計画を考えなければならない」と釘を刺す。

より上流の視点が求められる

 中長期的な視野に立って短期・繰り返し型のプロジェクトを率いる。これが、これからのERPパッケージ導入においてシステム部門に求められる役割だ。そのためには、複数の製品から最適なサービスを選ぶ能力が不可欠になる。冒頭に掲げたオリンパスの情報システム部門の変革は、こういった取り組みを先取りしたものといえる。

 具体例を示す。先行して導入したA社製品のサービスと、その後で導入したB社製品のサービスでは、同じ「受注業務」という名称のサービスでも粒度が異なる可能性がある。

 そのサービスが何を処理するものなのかを正確に理解しなければ、適切でないサービスに処理を受け持たせてしまう可能性がある。これでは開発は短期化できても、実運用に耐えるシステムは完成しない。

 ERPパッケージの導入に限ったことではないが、こういった事態を防ぐためには、「今まで以上にビジネスと技術の両方が分かる人材が必要になる」とIBMビジネスコンサルティング大竹パートナーは指摘する。

 だがITとビジネスの両者を理解した人材の育成は簡単ではない。SAPを10年以上利用している企業の情報システム部門幹部は、「社内で人材をそろえるのは無理。最新の技術動向を追うだけで精一杯だ。現実にはERPパッケージの導入を依頼するパートナーとは別の企業に、上流工程のコンサルティング・サービスを依頼することになるのではないか」と話す。

 利用企業に提案するITベンダーも、ERPパッケージのサービス化に向けて準備を進めている。住商情報システムでSAP製品の導入を手掛けるERPソリューション部の城野尚子部長は、「サービス化したERPパッケージの導入は実用段階に入りつつある」とみる。「サービスの組み合わせは、技術よりも業務知識が重要」として、人材育成に力をいれていく方針である。

 SAPやオラクル製品の導入を得意とする東洋ビジネスエンジニアリングの千田峰雄社長も同意見だ。「今後、我々のようなITベンダーには情報収集の能力が求められる」と強調する。「多くのサービスを知っていて、最適な組み合わせが提案できるかが勝負になる」(同氏)。