オンデマンド型のアプリケーションにもSOAによるサービス化の波が押し寄せている。SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)最大手の米セールスフォース・ドットコムは07年5月、「Salesforce SOA」を発表した。

 Salesforce SOAは、Webサービスを利用してアプリケーション同士を連携させるための処理を記述する言語だ。SAPやオラクルが提供するサービスを呼び出して、セールスフォースのアプリケーションと連携する、といったことを可能にする。アプリケーション開発環境「Apex」の拡張機能として、年内にも提供する予定だ。

サービス連携でアプリ強化

 同社でAppExchange and Developer relationsを担当するレネ・ボンバーニ上級副社長は、「我々が提供するのは、CRMソフトではなく、Web上であらゆるアプリケーションが利用可能になる環境。サービスの連携を可能にするSOAは、当社にとって中核となる考え方だ」と説明する。

 セールスフォースは、自社だけでなくさまざまな企業のアプリケーションをSaaSとして提供することを目的とした「AppExchange」を開設している。AppExchange上に登録されているアプリケーションは、個別に利用するだけでなく、複数を連携させて使うことができる(図A)。

図A●米セールスフォース・ドットコムは業務アプリケーションの連携基盤としての機能を強化している
図A●米セールスフォース・ドットコムは業務アプリケーションの連携基盤としての機能を強化している
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 ボンバーニ氏は、「これからは、サービス化したアプリケーションの連携基盤も、SaaSとして扱えるようにすべきだ」と話す。「高価なERPパッケージを購入したうえに、サービスを連携するために、基盤製品に投資するのはコスト面から見ると、とても非効率ではないか」とSaaSの優位点をボンバーニ氏は強調する。

 セールスフォースと同様に、複数のアプリケーションやサービスを連携するための基盤やツールを拡充しているのが米ネットスイートだ。同社は会計、販売管理などERPパッケージに相当するアプリケーション群「NetSuite」をSaaSとして提供する。

 ネットスイートも、アプリケーションの連携基盤「Suite-Flex」を用意。他社のアプリケーションと、Webサービス経由の連携を可能にする「SuiteTalk」や、アプリケーションのビジネス・ロジックを書き換えたり追加したりできる言語の「SuiteScript」などを提供している。

 「SaaS形式の他社のアプリケーションや、既存の社内システムなどと簡単に連携できるようにすることがこれらのツールの目的だ」とネットスイート日本法人の高沢冬樹セールス&マーケティング ディレクターは説明する。

 同社はすでに、日本の税制や商習慣をアプリケーションに反映するための「日本化」で、ミロク情報サービスと提携している。高沢ディレクターは、「日本特有の業務を提供する他社のサービスを、当社のアプリケーションに取り込んでいく可能性も十分にある」と語る。

オンデマンドとの融合目指すSAP

 ERPベンダーは、アプリケーションのサービス化の仕組みを、SaaSでも提供しようとしている。この分野でも先行するのはSAPである。

 SAPのヘニング・カガーマンCEOは、「顧客が望んでいるのは、形態を問わず、サービスを連携できる仕組みを作ること。当社はこれを実現する」と07年5月に表明した(写真A)。

写真A●SaaSへの取り組みを発表する独SAPのヘニング・カガーマンCEO(最高経営責任者)
写真A●SaaSへの取り組みを発表する独SAPのヘニング・カガーマンCEO(最高経営責任者)

 09年には、SAPのERPパッケージやCRM、SCMソフトと同じアーキテクチャで動作する、オンデマンド型アプリケーションを提供する可能性を示唆した。

 同社は09年から、「Process Exten-sions」と呼ぶサービス部品を提供する計画だ。Process Extensionsは、オンデマンド型でも、サーバーにインストールしても同じように利用できるものとして開発を進めている。

 Process Extensionsに先駆け、SAPは08年から、「A1S」をSaaSとして提供する。カガーマンCEOによれば、「A1Sは中堅企業の業務の支援に必要な機能を備えているERPパッケージ」である。

 詳細は発表されていないが、Web上で「受注」や「請求」といった処理を選択するだけで、そのままアプリケーションが利用できる。これらはサービス化したものであり、自由に選び、組み合わせることが可能だ。

 SAPがA1Sでオンデマンド型を採用したのは、「システム導入後すぐにアプリケーションを利用したいと考える中堅企業の希望に応えるため。社外、取引先などにも利用してもらいやすい」(カガーマンCEO)からだ。

 SAPだけではない。日本オラクルは、すでに「Siebel CRM On Demand」を、06年に国内市場に投入済み。オラクルは、Siebel CRM On DemandもオラクルのAIAの枠組みの中に取り込んでいく方針だ。富士通もサービス化したERPパッケージ「GLOVIA smart」をSaaSとして年内にも提供する計画だ。SaaSベンダーとパッケージ・ベンダーの境界がなくなる日も近い。