パソコン誌に長く携わったこともあり,私は比較的多くのパソコンに触れてきたと思う。パソコン本体だけでなく,パッケージソフトや周辺機器もいろいろ試してきた。その中で得られた教訓みたいなものがある。パソコンを買うときは,できるだけメジャーなパーツで構成されたパソコンを選ぶということだ。

 最大の理由は,ソフトのバグをできるだけ避けたいからだ。特に注意したいと思っているのがCPU。その意識を決定付けたのは,1年半ほど前に動画変換ソフトの評価を行ったときだった。評価内容は,テレビパソコンで録画したテレビ番組を,携帯メディアプレーヤーで再生できるようにMPEG4やH.264形式に変換し,変換時間と変換後の動画の画質を複数のソフトで比べるもの。ベスト3に入る大手パソコンメーカーからX社製CPUを搭載したデスクトップパソコンをお借りして評価していた。

 このときA社のソフト評価で,動画変換時の画質(主にビットレート)の設定を変えても結果が変わらないというトラブルが起きた。作成する動画のビットレートを変えても,変換後の動画の画質に違いが見られないばかりか,ファイルサイズも同一だった。これでは評価にならないので,A社に問い合わせてみた。その回答は「Y社製のCPUしか正式サポートしていません。X社製CPU向けのライブラリにバグがあった可能性があります」というものだった。そこで,Y社製のCPUを搭載したパソコンで評価をし直すと,きちんと動作したのである。

 もし,これだけで終わっていれば,A社のソフトを使う時は気をつけようで済んだのだが,Y社製のCPUしか正式サポートしていないのは,A社だけではなかった。前述のソフト評価を行ってから10カ月後のこと,大手メーカーB社のビデオカメラに付属していたソフト(同社製)について,動作環境に記述のなかったX社製CPUへの対応を問い合わせたところ,「動かないことはないと思いますが,正式サポートはしていません」との回答だった。

 B社のビデオカメラに付属していたソフトで実際に評価したわけではないので,X社製CPUできちんと動作するかどうかは定かではない。しかし,「正式サポートしていない」と言われると,X社製CPUを敬遠したくなるのがユーザーの心理だろう。

 こんな思いを強くしていたとき,ふとあることに気がついた。私がこれまで記憶に残るようなバグに遭遇したソフトは,いずれも映像系の編集・変換ソフトだった。そこからある流れが思い浮かんだ。

 (1)映像の編集や変換は処理が重いため,それだけ処理効率のよいプログラミングが求められる。(2)そこで最適化を図っていくと,CPUに依存した部分が多くなる。(3)ところが,最近はCPUの種類が多くなったため,すべてのCPUに対して最適化を図り,動作検証するのが難しい。(4)ターゲットとするCPUをメジャーなものに絞る。(5)結果,一部のCPUはサポートされなくなった。といったものだ。

 この推測が正しいかどうかは分からないが,十分な性能さえあればメジャーなCPUほど,広くソフトの動作対象となっていることは確かだろう。最近の映像系ソフトの中には,動作環境として,グラフィックスチップの種類を限定しているものや,モニターも限定しているものが出てきている。パソコンで映像系の処理をしたい方,お気を付けあれ。