この8月14日,かねてから話題になっていた米VMwareのIPO(新規株式公開)が実施された(関連記事)。初日の終値は51ドル。前日に発表された公開価格29ドルを大きく上回り,ハイテク関連企業としては2004年のGoogle以来の大型IPOとなった。同日の終値に基づく時価総額は190億ドル。海外メディアによると,ソフトウエア企業の時価総額では米Microsoft,米Oracle,ドイツSAP,米Adobe Systemsに次ぐ第5位の規模。今,投資家のみならず,多くがVMwareに熱い視線を注いでいるという(Reutersの記事)。今回はこうしたメディア記事の考察も確認しながら,VMwareや同社技術を取り巻く市場構図について考えてみる。

時価総額が200億ドルを突破

 VMwareの株価はその後も上昇し続けている。1週間後の8月22日の終値は66.85ドルで,時価総額は200億ドルを突破した(写真1)。VMwareは,仮想化技術の大手。ストレージ大手の米EMCが2003年12月に6億3500万ドルで買収していたが,EMCは今年2月にVMwareのIPO計画を発表。VMware株の約10%を売り出し,企業価値を最大限に高めるとした。  このIPOに先立ち米Intelと米Cisco SystemsもVMwareへの出資を決めており,今回のIPOは,こうした業界メジャー・プレーヤにも恩恵をもたらした(関連記事)。アナリストや投資家は,コンピュータ業界で次に来る大物は「仮想化」と見据え,VMwareに大きな期待を寄せている。

写真1●VMwareの株価   写真1●VMwareの株価
株価はさらに上昇。8月22日は一時73.95ドルにまで付け,終値は66.85ドル。時価総額は222億ドルとなった。
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なぜ今「仮想化」なのか?

 Reutersの記事によれば,業界には多くの大手企業が仮想化技術を使って製品開発している。この分野で頭角を現したいと考える新興企業も少なくない。しかしいずれもVMwareには遠く及ばないという。The News York Timesの記事では,Bernstein Researchの分析を引用してこう述べている。「VMwareの市場シェアは85%。同社の技術は競合他社の5年先を進んでいる」---。

 それを裏付けるかのようにVMwareの業績は絶好調だ。売上高は昨年1年で83%増大し,7億900万ドルに達した(EMCの発表資料)。今年に入っては,第1四半期の売上高が前年同期比95%増(関連記事),第2四半期も同89%増と好業績が続いている(関連記事)。この勢いでいけば今年の年間売上高は軽く10億ドルを超えるとアナリストらは予測している。

 それを支えるのが仮想化技術への旺盛な需要だ。「現在,データセンターにおける,PC用プロセサ搭載の業界標準コンピュータの仮想化ソフト導入割合はわずか3.4%。この割合は2015年にはその10倍になる」(The News York Timesの記事)という。

 現時点で仮想化技術の導入割合が少ないことから,今後の伸び代が期待できるというわけである。なおここでいうデータセンターとは,企業などが自前で抱えるデータセンターも含まれるようだ。また「PC用プロセサ搭載の業界標準コンピュータ」は,いわゆるPCサーバー/x86サーバーと呼ばれる,パソコンと同じ設計構造を持つサーバーのこと。その市場規模は膨大なものになる。

 ご存じのように仮想化とは,1つのマシンで複数OSの実装を可能にする技術だ。これまで企業では部署ごとにそれぞれの用途でPCサーバーの導入を進めてきたが,管理が煩雑になってきたことから,今,それらを統合し,少ないマシン構成によるサーバー環境に移行しようという流れにある。かつての企業コンピュータ環境はメーンフレームを中心とする集中型が主流だったが,手軽なPCサーバーが台頭して来たことからそれは分散型へと移行していった。そして今後は「高性能PCサーバーによる集中型」という新たな時代が到来すると予測されている。先ごろ発表されたMM総研の調査結果をみても,日本国内企業でそうした傾向が表れていることが分かる(MM総研の発表資料)。

 まもなく義務付けられる内部統制ルールでは厳格なデータ管理が求められる。このことからサーバー運用管理の簡素化/一元化が重要になってくる。また省スペース・高密度化や,省電力化も企業にとっての大きな課題。それらを実現する鍵が仮想化技術となる。米IDCの分析によると,今後マシンの高性能化に伴い,物理的なPCサーバーの出荷台数は減るものの,それに代わって仮想化された論理サーバーの台数は増えていくという。こうした動向を背景にVMwareはその成長が大いに期待されているという(関連記事)。