「転職してよかった──」。こう喜べるような転職をしたい。それには、自分に合った会社に 転職することだ。しかし、あまたあるIT企業の中から、そんな会社はあるのだろうか。 自分の希望に合った「良い会社」を見つけるコツを探った。

 IT業界では人材不足が慢性化しているなので、優秀な人材であれば引く手あまた。特に、上流工程も担当できるエンジニアやプロジェクト・マネジャー、コンサルタント、営業職といった職種の求人需要はうなぎ登りだ。こうした職種に就ける実力があれば、転職先を見つけるのは決して難しいことではない。

 とはいえ、「良い会社」に転職できるかどうかは別問題である。そもそも「良い会社」というのは、個人の価値観によって大きく変わってくるからだ。

自分の価値観を再確認し「良い会社」の定義を

 例えば、現在の給与水準に満足していないエンジニアのケースを考えてみよう。おそらく「残業が多いのに給与が少ない」「実績、実力が正当に給与に反映されていない」といった理由から不満を感じているのだろう。このため、転職先として希望が多いのは「もっと給与の高い会社」「残業が少ない会社」「正当に評価してくれる成果報酬型の会社」になる。

 給与水準に不満を持っているエンジニアにとって、「良い会社」は大手IT企業になるだろう。給与に関して言えば、大企業のほうが中小規模の企業やベンチャー企業よりも高いケースが多いからだ。通常、規模が大きければ大きいほどシステム開発の利益率は高くなる。そうした大規模案件の多くは大手IT企業が受注している。

 現在の給与水準に不満を持つエンジニアがいる一方で、仕事にやりがいを感じたいと切望するエンジニアもいる。彼らに共通しているのは、「最新の技術を使った開発をしたい」とか「プロジェクト・マネジャーとして上流工程を自分で担当したい」といった点に価値を見出していることだ。そんなエンジニアにとって、転職先を決めるうえで重要になるのはIT企業が得意とする分野や力を入れている技術、手掛ける開発案件の内容など。このため、必ずしも大企業が「良い会社」だとは限らない。

 大手IT企業は業務システムやWebシステムなど部署によってさまざまなソフトウエアの開発を手掛けているが、それだけに希望する仕事ができる保証はない。アプリケーションの開発を担当したいと思っていたエンジニアが業務システム開発部門に配属されるといったことはよくあることだ。

 給与水準が高い会社、能力主義の会社、残業が少ない会社、技術力のある会社、スキルアップできる会社など、その人が目指すものによって「良い会社」は変わってくるため、自分にとって「良い会社」を見つけるには、まずは自分が何を優先して働くかということををきちんと把握しておく必要がある。

 給与水準が高くて、仕事にやりがいがあり、スキルアップもできる、といった三拍子そろった会社が理想の勤務先だが、そんな会社は見あたらないと考えたほうがよいだろう。この3つの条件の中からどれを選ぶか――。今後のキャリア形成を考え、スキルの棚卸しをしてみると、自分の進みたい道、キャリアパスが見えてくるはずだ。見えてきたキャリアパスを実現するために、どういう会社に転職するのがいいかを考えれば、自ずと「良い会社」が見えてくるだろう。

何を優先して転職先を選ぶのか

ITSSで「実力」の把握をそのうえで将来を考える

 自分にとって「良い会社」をはっきりさせる一方で、自分の実力がどの程度なのかを確認しておくことも極めて重要になる。いくら転職を真剣に考えても、実力がなければ、受け入れてくれる会社は見つからない。とりわけ仕事にやりがいを感じたいと考えているのなら、自分の実力を正確に把握しておく必要がある。どの分野で自分は高く評価されているのか、どの技術が他のエンジニアより優れており、どこが劣っているのか――。等身大の自分を知ることが、今後のキャリア形成を考える際に欠かせない。

 スキルの水準を客観的に確認する方法としては、経済産業省が作成したITスキル標準(ITSS)が一つの目安となる。ITSSは、ITサービスの分野をコンサルタントやITアーキテクト、プロジェクト・マネジメントなど11職種、38の専門分野に分け、各専門分野ごとに達成度の指標と必要とされるスキル、習熟度を7段階で定義したものである。ITエンジニアの技術力がどのレベルに達しているかを客観的に判断する目安に、あるいは研修プログラムを開発する際の指針として、IT企業の利用が増えている。

 このITSSで自分がどの職種でどの程度のレベルにあるのかを把握したうえで、将来的にどういう職種・専門分野に進みたいか検討してみる価値はある。例えば、プログラマとしてアプリケーション開発に従事していたエンジニア。スキルを積んでプロジェクト・マネジャーになり、さらにITコンサルタントになることを目指すという道もあれば、技術を追求してデータベースやネットワークなどのITスペシャリストを目指すというキャリアもある。

 プロジェクト・マネジャーやITコンサルタントを目指すなら、金融や物流、流通など、システムが処理する業務の知識も必要になってくるだろう。要件定義や仕様書作成といった上流工程の作業では、業務知識は必須になるからだ。一方、プロジェクト・マネジャーではなく、ITスペシャリストを目指すのであれば、データベースやネットワークなどに関する知識やプログラミング技術をさらに深めなければならない。