2.5GHz帯の免許割り当てについて,総務省が5月に公開した方針案が波紋を呼んだ。全国バンドの免許を手にすることができるのは2社だが,この枠から第3世代携帯電話(3G)事業者およびその子会社や親会社などのグループ会社が除外されたからだ。ただし3G事業者およびそのグループ会社でも,出資比率を3分の1未満に抑えた会社を通してであれば免許獲得にかかわることができる。

 この方針案に基づき,総務省は7月11日に方針を発表。一部固定系地域バンドについては方針案からの変更があったものの,移動体通信を想定した全国バンドは方針案通りに決定した(関連記事)。総務省は9月10日から10月12日まで「特定基地局開設計画の認定申請」,つまり免許申請を受け付ける(関連記事)。

手を挙げるのは4グループか?

 免許方針案が公開されて以来,2.5GHz帯の免許を取得するのは,参入に対する制約条件がないPHS事業者のウィルコム(次世代PHSでの参入を検討)とADSL事業者のアッカ・ネットワークス(モバイルWiMAXでの参入を検討)が有力と見られている。しかし,単独参入の道が閉ざされている3G事業者も,出資を通した参入の道を探る動きが表面化したことで,免許の行方は混沌(こんとん)としてきた(図1)。

図1●2.5GHz帯の免許を巡る通信事業者の動き
図1●2.5GHz帯の免許を巡る通信事業者の動き
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 免許方針案が出た後,最も早く2.5GHz帯への参入意志を公にした3G事業者がKDDIだ。かねてからモバイルWiMAX導入に積極的だったKDDIの小野寺正・代表取締役社長兼会長は6月13日の定例社長会見で「(3分の1未満の出資でも)当社が中心となってまとめていく必要がある。主導権をとってやっていきたい」との意欲を見せた(関連記事)。

 KDDIの技術渉外室長でWiMAXフォーラムのボード・メンバーでもある冲中秀夫執行役員は「持っている様々なリソースを使って,事実上KDDIが主導権を握れるコンソーシアムを作りたい」と語る。「コンソーシアム」の具体的構成は8月中旬時点で公になっていない。一部メディアは,KDDIと同社の株主である京セラが,WiMAX参入に向けた事業会社の設立を目指していると報道。両社ともこの件について「ノーコメント」としているが,水面下では参入に向けた動きが進んでいるようだ。

 3G事業者同士の合従連衡に言及したのがソフトバンクである。ソフトバンクモバイルと,傘下に3G事業者のイー・モバイルを擁するイー・アクセスは6月21日,共同でモバイルWiMAXの事業化へ向けた事前調査を実施すると発表。共同出資会社の設立を検討していることを明らかにした。さらに8月8日に開催したソフトバンクの2007年度第1四半期の連結決算(関連記事)の発表会の席で,孫正義・代表取締役社長は「2.5GHz帯の認定申請に向け出資者を検討中」と発言。モバイルWiMAXへの取り組みについて意欲的な姿勢を見せた。

 3G事業者最大手のNTTドコモも,2.5GHz帯への免許申請をする腹を固めたようだ。同社経営企画部長の伊東則昭・取締役執行役員は,複数の企業と参入へ向けて交渉中であることを認める。交渉が成立すれば「9月末から10月初旬には申請できるだろう」(伊東取締役)と語る。

 いずれにせよ最終的に選ばれるのは2社しかない。申請期間は9月10日から10月12日までの一カ月間。この間に3G事業者はどのような動きを見せるのか。各社の動向から目が離せない。

3分の1未満の出資比率で3G事業者は参入

 そもそも,こうした混沌とした状況を生み出す契機となったのは,総務省が示した前例のない免許方針案である。NTTドコモの伊東取締役は,「こういう形で『ある人は入れませんよ』という免許方針が出されたのは初めてだと思う」と驚きを隠さない。

 総務省が出した免許方針案(その後正式な免許方針となった)では,3G事業者は単独で2.5GHz帯の免許を申請できない。それだけでなく,その子会社や親会社,兄弟会社も単独申請が不可能で,共同出資会社も3G事業者と同一のグループ企業の出資比率合計が3分の1未満でないと申請の資格がない(図2)。総務省総合通信基盤局電波部移動通信課の西潟暢央課長補佐は,「新規参入の促進を図るのが目的」とその意図を説明する。

図2●既存の第3世代携帯電話事業者の単独参入を排除した2.5GHz帯無線ブロードバンドの免許方針
図2●既存の第3世代携帯電話事業者の単独参入を排除した2.5GHz帯無線ブロードバンドの免許方針
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 一方で,総務省には3G事業者に無線ブロードバンド事業に関与してほしいという思いがあったようだ。無線通信事業には膨大な投資が不可欠であり,基地局設置のノウハウなどが必要になるからだ。新規参入事業者は,既存事業者の常識にとらわれない新しい発想をもたらす可能性がある半面,ノウハウや資金面に心もとないところがある。

 西潟課長補佐は,この「3分の1未満」という出資比率を「絶妙なバランス」と自賛する。無線ブロードバンドへの参入の意欲を見せていた3G事業者を完全に排除するのではなく,影響力をできる限り弱めながらもその力を借りるために,3分の1未満という数字がバランスを保てるという思いが読み取れる。

 今後総務省は,9月10日から10月12日まで参入を希望する事業者を募集し,その後,事業者選定に移る。事業者が決まるのは11月ころになりそうだ。ただし3G事業者が出資先の合意を得られなかった場合などは,参入を断念せざるを得ない可能性もある。事業者が出そろわない中で予測するのは早計だが,2社しか選ばれないだけに,周波数割り当てを巡って大きな混乱があるかもしれない。

サービス開始は最短で2008年末ころ

 年内に事業者に免許が与えられたとしても,モバイルWiMAXを使った無線ブロードバンド・サービスが始まるのは最短で2008年末ころになりそうだ(図3)。その理由の一つが,モバイルWiMAXの認証時期との関連である。次世代PHSでの参入を目指すウィルコムを除き,各事業者はモバイルWiMAXの「3A」と呼ぶプロファイルを採用する予定。このプロファイルに基づく機器の認証は「WiMAXフォーラム内では来年の春くらいに始まる」(KDDIの冲中執行役員)という。

図3●モバイルWiMAXの商用サービス実現までの流れ
図3●モバイルWiMAXの商用サービス実現までの流れ
モバイルWiMAXの商用化は韓国が先行している。日本では最短で2008年末にモバイルWiMAXによる商用データ通信サービスが開始されそうだ。
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 日本の各通信事業者は調達コストを引き下げる狙いから,相互接続が保証されたモバイルWiMAX機器をグローバル市場から安価に調達したいと考えている。そのためにはWiMAXフォーラムによる機器認証が始まり,認証を受けた製品が出回るタイミングまで待った方が得策というわけだ。韓国では既にサービスが始まっているのに,日本で無線ブロードバンド・サービス開始が2008年末以降になるのは,採用するプロファイルに違いがあるためだ。

 ここで簡単にモバイルWiMAXの周波数帯やプロファイルの違いを説明しておこう。無線ブロードバンドを導入する周波数帯は,各国の事情によって異なる。日本では2.5GHz帯を軸に議論が進んだが,同じモバイルWiMAXの導入を目指す台湾や韓国とは若干周波数帯が異なる(図4)。周波数が大きく離れると各国・地域で共通の機器が使えなくなり,コスト増の要因になるが,日本,台湾,韓国の周波数は隣接しており,機器側の対応はそれほど難しくはない。

図4●日本,韓国,台湾の無線ブロードバンドのための周波数割り当て
図4●日本,韓国,台湾の無線ブロードバンドのための周波数割り当て
韓国はモバイルWiMAX相当のWiBroサービス用に2.3GHz帯を割り当てた。日本は2.5GHz帯,台湾は2.6GHz帯が中心で,モバイルWiMAXだけでなく他の方式を事業者が採用することも可能。
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 モバイルWiMAXの実装仕様を定めるプロファイルは,現在5種類ある。日本と台湾は同じプロファイルを採用するが,韓国は別のプロファイルだ。具体的には韓国のWiBroは「1A」,日本や台湾は「3A」である。1AはモバイルWiMAXの「Wave 1」と呼ぶバージョンに相当するが,3Aは別バージョンの「Wave 2」に含まれる。このバージョンの差は将来,伝送速度などの違いとなって現れてくる。

(編集部注:本記事は2007年7月15日号の記事をベースにしていますが,新たな情報を加えて加筆・再構成しました)