8月22日,マイクロソフトは1通のプレスリリースを公開した。リリースのタイトルは「Microsoft Windows XP正規OEMライセンスの提供を2008年1月31日にて終了」。メールで同リリース本文を受け取った記者は,タイトルを見た瞬間,「いよいよXPの販売も終わりか」と落胆し,「新品のOEM版をもう1枚買ってこよう」と決意した。ところが,同リリースを読み進めてみると,どうやら2009年1月31日までOEM版の販売を継続するらしい。

 OEM(相手先ブランドによる生産)とは,販売会社が,製造会社のブランドではなく,販売会社のブランドを用いて販売したい場合に用いる商習慣である。OEMという言葉自体の主体は製造会社であり,製造会社が販売会社に対して製品を供給することを「OEM供給」と表現し,その逆を「OEM供給を受ける」と呼ぶ。

 このOEMの関係を,OSとハードウエアの世界に適用すると,こうなる。つまり,OSの製造会社であるマイクロソフトが,パソコンの製造会社であるがゆえに自動的にOSの販売会社となるパソコン・ベンダーのために,パソコン・ベンダーのブランドで販売されるOSを供給する。OSにはマイクロソフトのロゴが残るしマイクロソフトのOSそのものなのだが,エンドユーザーから見たサポート窓口はパソコン・ベンダーとなる。ハードウエアとソフトウエアの関係をOEMと呼ぶのが適切かどうかはさておき,OSベンダーであるマイクロソフトは,プリインストールを前提としたOSの供給をOEMと呼んでいる。

 このOEM版の最大の特徴は,流通コストやサポート・コストがかからないうえに,マイクロソフトにとってはWindowsのシェア拡大という意味も持つため,パッケージ版と比べて購入コストが安価である点だ。

 一方で,パッケージ版とは異なり,今使っているパソコンが旧式になったからといって,別途用意した最新のパソコンにインストールし直すことが原則できないというライセンス上の難点がある。OEMであるという意味は,OEM先となるハードウエアとの関係を断ち切ることができない,ということである。

 ところが,太っ腹のマイクロソフトは,OSのプリインストール済みで販売されているパソコンにとどまらず,インストール作業をエンドユーザーに委ねる形態,すなわちハードウエアとOSとのセット販売においてもOEMのライセンス形態を適用した。さらに,ハードウエア一式だけでなく,ディスク1個とかフロッピ・ディスク装置(FDD)1個とかマザー・ボード1枚とか,こうした部品との組み合わせにおいてもOEM版の購入を可能にした。OEM版はハードウエアとの関係を切れないが,10年でも20年でも使えそうな部品であるFDDと組み合わせることで,事実上,永遠にハードウエアを乗り換えて使い続けられることになる。

 さて,ここで8月22日のプレスリリース「Microsoft Windows XP正規OEMライセンスの提供を2008年1月31日にて終了」の冒頭3段落分を,以下に引用する。

 マイクロソフト株式会社(本社:東京都渋谷区)は,Microsoft Windows XPの正規OEMライセンスの提供を2008年1月31日に終了します。これに伴い,PCメーカー各社からのWindows XP搭載PCの生産も同日をもって終了することとなります。

 マイクロソフトは,製品の導入検討やIT投資計画策定にあたり,ユーザーやパートナー各社に活用いただくことを目的に,製品ライフサイクルガイドラインを設定し,製品の入手可能期間とサポートに関する変更予定を事前に案内しています。マイクロソフトは,2001年2月に本ガイドラインを公開して以降,その後2回の改定を経て現在に至っており,PCメーカーおよび販売パートナー各社含め,周知を図ってきました。

 今回の提供終了についても,本ガイドラインに基づき,Windows Vistaの一般向け発売の2007年1月30日から1年が経過した2008年1月31日に終了するものです。なお,マイクロソフト ボリュームライセンスによる提供は,Windows Vistaの企業向けライセンス販売を開始した2006年11月に終了しています。また,Windows XPのOEM正規販売代理店ライセンス(DSP版)は,2009年1月31日まで提供されます。

 3段落目の最後に注目して欲しい。タイトルでうたっているOEMライセンスとは別に,DSP版と呼ぶ,別のOEMライセンスが存在することが分かる。この2つの関係を表に表すと,以下の通りとなる。

Windows XP OEM版のライセンス名称 提供終了日
正規OEMライセンス 2008年1月31日
OEM正規販売代理店ライセンス(DSP版) 2009年1月31日

 FDDとセットで購入してきたOEM版は,現在はDSP版と呼ぶらしい。すぐに記者は街のパソコン・ショップへと出向き,調べてみた。すると,数年前までは普通にOEM版と呼んで販売していたOEM版のOSは,DSP版と呼ばれて販売されていた。だが,記者は疑問に思う。パソコン・ベンダー向けのOEM製品と,パソコン・ショップにおいてFDDとセットで購入できるOEM製品とを別のライセンス扱いとする理由はどこにあったのであろうか。

 マイクロソフトのサイトには,OEMパートナ向けの情報提供ページ「OEM Partner Center Webサイト(OPC Web)」がある。ここの情報によれば,ユーザーに与えられている権利は,パソコン・ベンダーがプリインストールしているOSとDSP版のOSとで,同じOEM版同士,ほとんど変わらないことが分かる。NECや富士通などのパソコン・ベンダーからはプリインストール機が出荷されなくなるが,DSP版をプリインストールしたショップ・ブランドのパソコンは出荷され続ける---。本質的に両者の何が異なるというのだろうか。

 何はともあれ,2009年1月31日まではOEM版の入手が可能なので,いずれ購入したいと思う。現在所有しているシリアル番号は,マザーボードの交換などハードウエアの増強にともなう新規インストールを繰り返したことにより,すでに電話によるアクティベートが必要になってしまっているのだ。まだ使われていない,新品のシリアル番号へと“バージョン・アップ”したいのである。