参議院選挙が終わってから、社会保険庁の年金記録問題への世間の関心はやや薄らいできたような気もするが、我が家では、ある出来事がきっかけになって、つい先日まで社会保険庁のシステムがたびたび批判の的になった。正直に言ってささいなことだったが、この経験を通して「顧客と接する情報システム(業務プロセス)の設計が甘いと、顧客には大きな不満が残るのだな」ということが実感できた。

 まず、社会保険庁のシステムを巡り、我が家で起こった“ある出来事”について説明しておきたい。筆者の妻は国民年金に加入している。年金記録問題が取りざたされているのをテレビなどで知り、自分の年金加入記録が正しいのか気になったようだ。加入記録は社会保険庁のWebサイトで閲覧できるが、そのためには専用のIDとパスワードを社会保険庁に発行してもらう必要がある。そこで妻は、同庁のWebサイト上でIDとパスワードを申請した。

 しかし、申請時に入力したデータに小さな相違があった。申請から1カ月以上経過したころ、「申請データの一部が社保庁のデータと異なるため、IDとパスワードを発行できない」という旨の通知が自宅に郵送されてきた。その相違の内容を知って、妻はぷりぷりと怒り出した。

『住所の中に「○○方」を書き忘れただけでしょ!』

 大いなる不満の1つは、妻にとって見れば「どうでもいいこと」を書き忘れただけで申請が却下されたことだった。我が家は賃貸で、大家さんが所有する2世帯住宅の2階部分を借りている。そのため、正式な住所は、番地の後に「○○方」と書く。例えば「1丁目2番地 山田方」という具合である。

 この、普段は書かずに済んでいる「○○方」を入力しそびれただけで、IDとパスワードを発行してもらえなかったのだ。仕方のないことだが、その後、もう1度申請をやり直すはめになったことが頭に来たようだ。

 しかし、この話が問題なのではない。本題はここからだ。

『社会保険庁が間違っているって言う住所に、
どうしてこの通知を送ってくるのよ!』

 妻は怒り出した勢いで、皮肉たっぷりにこう言い放った。確かに、システムが間違っていると判断した住所に通知書類を郵送するのは、明らかに矛盾している。通常はあて先不明で社会保険庁に戻ってくるだけだから、通知書類が他人に届く心配はないが、それでもいかがなものだろうか。

 「申請時に電話番号を入力しているのだから、電話で申請データの誤りを伝えるべきだ」というのが妻の主張だ。そして、「そのときに正しい情報を伝えられれば、申請をやり直す必要もなかったはず」と付け加えた。

 社会保険庁が大勢の人にいちいち電話で対応するのは大変だろうなとも思うし、利用者本位の主張だなとも思うが、一般のシステム利用者の意見として筋は通っている。「社会保険庁のシステム(業務プロセス)はおかしい。お役所仕事だ」と感じる人も少なくないのではないか。ささいなことであっても、システムの利用者に大きな不満をもたらし得るのだと感じた。

 最初に申請してから2カ月近く経って、ようやく加入記録を閲覧するためのIDとパスワードが届いた。加入記録に間違いはなかったので一安心したが、少しだけ後味が悪かった。